<社説>陽茉莉ちゃん帰国 沖縄の空と海を見せたい


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 拡張型心筋症のため、2016年11月に米国で心臓移植手術を受けた森川陽茉莉(ひまり)ちゃん(2)が4カ月半ぶりに帰国した。

 東京都内の病院に入院し、経過観察やリハビリを行う予定だという。無事手術が済んだことを喜ぶとともに、一日も早く自由に行動できるようになることを願う。父親の古里である沖縄の青い空と海を自らの目で確かめてほしい。
 陽茉莉ちゃんの支援は16年6月に父親の孝樹さん=横浜市在住、うるま市出身、母親の佳菜子さんの職場の同僚らが中心となって関東地方で始まった。県内でも孝樹さんの同級生らを中心に活動してきた。
 県内外から多くの善意が集まり、16年10月には目標を超える3億2400万円余が陽茉莉ちゃんの支援に寄せられた。
 外国での心臓移植を目的とした県内の支援活動は、陽茉莉ちゃんを含め11年から16年にかけて4人に対して行われた。4人への支援総額は11億円を超える。
 人々が互いに助け合う「結いの心」が発揮された証しといえる。相手を思いやり、支え合う行動を実践できる県民性を誇りに思う。
 気になるのは、国内での移植手術の環境整備がどこまで進んでいるかだ。臓器提供者が少ない日本では待機が長期化し、海外での手術をするため高額の渡航費、治療
費を必要とする例が後を絶たない。
 国立循環器病研究センターの福嶌教偉氏の論文によると、臓器提供者の年齢制限をなくした10年の改正臓器移植法施行から16年までの小児(18歳未満)からの心臓提供は11人しかいない。一方、国内で心臓移植を必要とする子どもは年間50人ほどいる。
 08年に国際移植学会が出したイスタンブール宣言は「移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること」をうたっており、欧州では事実上、外国からの患者を拒否している。将来も外国での移植手術が可能なのか不透明だ。
 臓器提供者の家族への説明や事後のケアを担う移植コーディネーターも不足しているとされる。コーディネーター育成などの公的支援を急がねばなるまい。
 法的に整備されたとはいえ、個人負担が重い現状は改善する必要がある。国民一人一人が臓器の提供・移植に理解を深めることも重要だが、国は医療現場の環境改善に力を注ぐべきだ。