<社説>「共謀罪」国会提出 無用で害悪、即刻廃案に


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 無駄なことの例えに「屋上屋を重ねる」という言葉がある。政府が国会に提出した組織犯罪処罰法改正案、いわゆる「共謀罪」法案はまさにその典型だ。現在ある法に基づいて対応できるのに、なぜ無用の法を加える必要があるのか。

 捜査機関の恣意(しい)的な運用で市民監視社会に道を開きかねない悪法でもある。無駄どころか害悪でしかない。
 法案の柱は犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の新設だ。現行刑法は犯罪の結果である「既遂」に対する処罰を原則としている。犯罪の前段階である「未遂」「予備」「陰謀」は、それぞれ殺人や内乱など引き起こされる結果の重大性によって厳密に適用される範囲が定められている。
 計画段階での処罰を可能にすることは「既遂」を原則とする刑法の体系をも根幹から揺るがす。
 政府は「共謀罪」の必要性に関してテロ防止を前面に掲げ、法案成立を急務とする。だが化学兵器や病原体などの使用、犯罪による収益に関する事実の隠匿など、テロ行為につながる準備段階の行為は、現行法でも処罰できる。
 テロ防止が目的だとしても、犯罪行為を計画段階で察知するには、捜査機関にさらなる権限を与えることが予想される。手段としては盗聴、尾行、潜入(おとり)捜査などが考えられる。これらが日常的に実行されれば、まさに警察による監視社会の実現だ。
 米軍基地周辺で行われる抗議活動が兵器や弾薬などの損壊行為に向けた下見と見なされ、「共謀罪」の適用対象になるという懸念は与野党にかかわらず存在する。
 安倍晋三首相は1月の国会答弁で、処罰対象は「そもそも犯罪を犯すことを目的とする集団」としていたが、2月には「そもそもの目的が正常でも、一変した段階で一般人であるわけがない」と説明を変えた。労働組合など正当な目的の団体であっても、捜査機関が「組織的犯罪集団」として認定すれば処罰対象にすると受け止められる。
 東村高江でのヘリパッド建設に対する抗議活動で本来なら立件すら疑わしい事案を公務執行妨害などとして起訴し、政権批判を封じるのが現政権の体質であり、司法も追認する。犯罪集団と認定される危険性は誰にでもあるが、現政権で歯止めはないに等しい。市民社会の自由が奪われる前に即刻廃案にすべきだ。