<社説>シリア攻撃 米は和平協議に乗り出せ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 トランプ米政権はシリアのアサド政権軍が化学兵器を使ったとして、シリア軍基地への巡航ミサイル攻撃を実施した。シリア内戦開始後、米国がアサド政権への軍事攻撃に初めて踏み切った。

 今回の攻撃がシリア情勢を安定化に向かわせるとは思えない。「出口戦略」を明確に描いた上で行動に出た可能性も低く、トランプ政権の場当たり的な軍事行動というほかない。
 発端は今月4日、シリアのイドリブ県での空爆だ。サリンが使われたとみられ、住民ら86人が死亡した。子どもや女性が倒れて苦しみ、口から泡を吹くなど毒ガスを吸い込んだ症状を示していた。
 化学兵器の使用、保有などはシリアを含む世界の大半の国が参加する化学兵器禁止条約で禁じられている。非人道的な化学兵器が使用されたとすれば、国際社会から厳しく非難されなければならない。
 トランプ米政権の軍事攻撃はアサド政権が化学兵器を使用したという前提に基づいている。しかし確実な証拠を示していない。アサド政権は使用を否定している。日本政府関係者も未確認だと認め、官邸筋は「私たちは、証拠は何も持っていない」と話している。
 それにもかかわらず安倍晋三首相は攻撃があった7日に「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米政府の決意を支持する」と述べた。攻撃を容認したとしか受け取れない姿勢は看過できない。
 攻撃自体については菅義偉官房長官は「深刻化を食い止めるための措置と理解している」と述べ「支持」にまでは踏み込んでいない。首相周辺は「工夫した表現だった」と説明する。「支持」したのは米政府の「攻撃」ではなく「決意」に対してという。言葉遊びをしている場合だろうか。巧妙に表現を使い分けつつ、米政権におもねる卑屈な姿勢としか映らない。
 2003年に米国は大量破壊兵器保有を理由にイラク戦争に踏み切り、日本も米国を支持したが、大量破壊兵器は発見されなかった。今回の化学兵器攻撃を誰が行ったのかについての国連調査結果も出ていない。
 米国が本来行動に移すべきだったのはミサイル攻撃ではなく、和平協議に本腰を入れることではなかったか。国外に避難している数百万人のシリア人が帰国できるような永続的な平和実現のため、政治交渉を積極的に重ねることこそが求められている。