<社説>辺野古護岸着工 政府の専横には屈しない 知事は直ちに承認撤回を


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 名護市辺野古の新基地建設で政府は埋め立ての第一段階となる護岸工事に着手した。普天間飛行場全面返還合意から21年、新基地建設問題は新たな局面を迎えた。
 翁長雄志知事は「環境保全の重要性を無視した暴挙だ」と厳しく批判した。しかも政府の岩礁破壊許可の期限は切れている。政府は無許可で工事を強行したのだ。
 法治主義を放棄する政府の行為は許されない。翁長知事が「護岸工事は始まったばかりだ。二度と後戻りができない事態に至ったものではない」と述べたように、県民は政府の専横に屈するわけにはいかない。私たちは諦めない。

県民の諦め狙う着工

 護岸工事は25日午前に始まり、5個の石材を海中に投下した。うるま市長選で政府与党が支援した現職の3選勝利を踏まえた工事着工は、新基地建設に反対する県民の諦念を引き出すことを狙ったのは間違いない。
 稲田朋美防衛相は会見で「護岸工事の開始は普天間飛行場の全面返還を実現する着実な一歩となると確信している」と述べた。
 稲田防衛相の「確信」は県民意思と隔絶しているばかりではなく、民主国家が取るべき手続きを足蹴(あしげ)にしているのだ。
 漁業権に関する知事権限や岩礁破砕の更新手続きに関する政府と県の対立は残されたままだ。
 仲井真弘多前知事の埋め立て承認書の規定を踏まえ、県は本体工事前の事前協議を求めたが、政府は協議打ち切りを県に通告した。
 法的に護岸工事着手の環境が整っていないのは客観的に見ても明らかなのだ。それを無視し、工事を強行する政府に法治国家を掲げる資格は全くない。
 菅義偉官房長官は24日の会見で、最高裁判決に触れながら「主文の趣旨に従って県と国が努力することが大事だ。法治国家であり決着はついた」と語った。
 しかし、政府は法治国家が取るべき手続きを放棄しているのだ。これで決着したとは到底言えない。
 新基地の完成までには約10年を要する。政府はその間、普天間飛行場の危険性を放置するのか。
 仲井真前知事の埋め立て承認時に「5年以内の運用停止」を政府と約束した。ところが翁長県政になり政府は「(運用停止は)辺野古移設への県の協力が前提」と突然言いだし、約束をほごにした。
 新基地建設という米国との合意に固執し工事を強行する一方で、普天間飛行場の周辺に住む宜野湾市民の負担軽減に向けた具体策を講じようとしないのだ。政府の不作為を許すわけにはいかない。

今も続く分断と収奪

 今年は日本国憲法の施行70年、サンフランシスコ講和条約の発効から65年、沖縄の施政権返還から45年の節目の年である。
 沖縄の民意に反する護岸工事着手に直面し、私たちは「分断と収奪」に象徴される米統治に続く、今日の「不公正」の横行に強い憤りを抱かざるを得ない。
 施政権を切り離され、人権と財産を奪われ続けた米統治から脱するため、県民は施政権返還を希求した。ところが、米軍基地は存続し、相次ぐ事件・事故による人権侵害が続いている。米国との同盟関係の維持を追求する政府は、県民を公正に扱おうとはしない。
 軍用地強制使用や訓練による環境悪化、航空機騒音に対する県民の異議申し立てに政府は正面から向き合おうとせず、むしろ法的に抑え込むか権限を奪い取るという行為を繰り返してきた。
 同じような態度を沖縄以外の国民に対してもできるのか。米統治の「分断と収奪」は今も続いていると言わざるを得ない。それが復帰45年を迎える沖縄の現実だ。
 私たちは政府の不誠実な態度にいま一度明確な態度を示さなければならない。翁長知事は自身の公約を具現化するために、直ちに埋め立て承認撤回に踏み切るべきだ。県民は知事の決断を待ち望んでいる。