<社説>朝日新聞襲撃30年 言論封殺には屈しない


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 1987年の憲法記念日の夜、兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局に散弾銃を持った男が押し入り、小尻知博記者が銃撃され死亡、犬飼兵衛記者が重傷を負った。あの事件から30年たった。

 言論機関がテロ攻撃を受け、憲法が保障する言論の自由が侵害された。意見や立場の違いがあろうとも、それを受け入れる多様な社会でなければならない。私たちは暴力による言論封殺に決して屈しない。
 阪神支局襲撃後に「赤報隊」名の犯行声明文が届き「反日分子は極刑」などと書かれていた。警察は右翼団体関係者らを捜査したが2002年、事件は時効となった。「反日」という言葉は今、異論を排除する時に使われている。気に入らない意見に「反日」とレッテルを貼って切り捨てる不寛容な空気が広がっていないか。
 阪神支局襲撃事件以降も言論に対する暴力は依然後を絶たない。
 1990年1月「天皇に戦争責任」と発言した本島等長崎市長が銃撃された。2006年8月には小泉純一郎首相の靖国参拝を批判した加藤紘一衆院議員の実家と事務所が放火で全焼。07年には被爆地・長崎の代表として国内外で平和を訴えてきた伊藤一長市長が暴力団組員に銃で撃たれ死亡した。
 県内では昨年、米軍北部訓練場でヘリパッド建設の取材に当たる琉球新報、沖縄タイムス両紙記者を警察が現場から排除した。安倍政権は記者拘束について事実関係を検証せず、根拠も明らかにしないまま「報道の自由は十分に尊重されている」とする答弁書を閣議決定した。警察の恣意(しい)的な権限行使を擁護することは、国家が言論規制に手を貸しているに等しい。
 国境なき記者団(RSF)はこの答弁書に触れ「安倍晋三首相率いる政府は機動隊のこのような活動を容認し、ジャーナリストにとって危険な前例を作った」と問題視している。
 RSFが発表する各国の報道自由度ランキングで、日本は10年の11位から16年には72位に大きく下がった。安倍政権が成立させた特定秘密保護法などの影響で「自己検閲の状況に陥っている」との指摘を、重く受け止めなければならない。
 報道機関が自己規制すれば、戦前に逆戻りである。メディアが国家に統制された歴史を繰り返してはいけない。権力監視こそ使命であることを肝に銘じたい。