<社説>性犯罪抜本見直し 刑法改正審議を優先せよ


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 性犯罪に関する規定を抜本的に見直す刑法改正案が閣議決定されたのは3月7日。共謀罪法案の閣議決定はその2週間後だった。しかし、与党は慣例に反し、野党の要求も突っぱねて、批判の強い共謀罪法案を優先して審議を強引に進めている。後回しにされたことで今国会での成立が危ぶまれている。刑法改正案を優先して審議すべきである。

 改正案は、被害者に男性も含め、性交の類似行為も対象として「強姦(ごうかん)罪」を「強制性交等罪」に変更した。法定刑の下限を引き上げ、被害者の告訴を必要とする「親告罪」規定を削除した。「暴行または脅迫」が強制わいせつ罪も含めて要件となっている点についても、被害者が18歳未満の場合、親など「監護者」が加害者の場合は要件とならなくなる。
 識者からは改正案になお不十分な点が指摘されており、国会での議論が必要だ。
 「暴行または脅迫」という要件について監護者を除外することは前進としつつ、除外の範囲が不十分という批判が強い。性暴力は上下関係、権力関係において強い立場の者が加害者となることが多い。教師やスポーツ指導者によるケースが多いことは、法制審議会でも指摘されていた。
 親告罪規定をなくすことに関しては、捜査や立件にあたってのプライバシー尊重とともに、被害者の救済、ケアの体制も丁寧な検討が必要だ。また罪名について、性的手段を用いた暴力という本質から「性的攻撃罪」「性的接触罪」とすべきだという意見もある。
 「魂の殺人」と言われる重大な人権侵害である性犯罪は、多くが闇に埋もれていると指摘されてきた。2011年の内閣府調査によると、無理やり性交を迫られた経験のある女性は7・7%、そのうち約7割が誰にも相談しなかった。
 沖縄では米軍関係者による性暴力被害が後を絶たない。また青少年が性犯罪を含めさまざまな暴力にさらされている。刑法改正が青少年保護や性犯罪防止の議論加速の契機となることを期待したい。
 現行刑法が成立したのは1907(明治40)年。女性の貞操への侵害とする家父長的な発想が強かった時代だ。性犯罪被害の実態から乖離(かいり)しているとして長年、不備を批判されてきた刑法の110年ぶりの抜本改正が、これ以上先送りされることは許されない。