<社説>増水54人一時孤立 水辺で細心の注意払おう


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 大惨事につながりかねない事態がまた起きた。名護市の源河川と大宜味村の平南川が増水し、2カ所で計54人が一時取り残された。

 6日も国頭村安波の普久川(通称タナガーグムイ)で女性が滝つぼに落ち、亡くなる事故があった。
 源河川と平南川では最近10年間だけでも同じような事態が5回起きている。いずれも大雨洪水の注意報あるいは警報が出されている状況だった。
 これから夏に向けて水辺でのレジャーの機会は増える。穏やかな流れの場所でも豪雨があれば、様相は一変する。事前に予報を確認し、現地では天候の変化に注意するなど、水辺では細心の注意を怠らないよう肝に銘じたい。
 5日も名護市では大雨洪水警報が午後2時46分に出されていた。1時間当たりの降水量は名護市東部と西部で約60ミリ、東村付近でも約50ミリが観測されていた。
 ただ救助された人たちの話では、平南川で5分ほど雨が降ったというが、源河川ではまとまった雨は降っていなかったという。突然透明だった川が濁り始め、増水したことが分かっている。
 専門家や警察の話では、山の上部で雨が降ると、下流で一気に水位が上がることがある。島嶼(とうしょ)県の沖縄は、川の長さが短いものの急な傾斜が多いため、天候による影響が大きいとされるからだ。
 大宜味村は平南川を訪れる人に向けて、注意喚起するなど安全対策を取っていた。だが入山後に天候が大きく変化すれば、その後の対応は難しい。より丁寧に注意を呼び掛けるなどの方策が必要だ。
 増水の怖さは行楽地に限らない。2007年には八重瀬町の報得川、09年には那覇市のガーブ川、10年にはうるま市の側溝、13年には石垣市の側溝で事故が起きている。いずれも大雨の後の増水や鉄砲水に巻き込まれ、尊い命が失われた。
 都市部では上流域の開発で本来なら水が流れ込む地面が舗装され、排水溝などに水が集中することから増水するとされる。山間部の地形と同様、構造的に急激な増水が起きやすい場所はどこにでもあるのだ。
 行楽の季節だけでなく、夏場に向けて台風の襲来もある。大事なのは大雨の場合に、危険が潜む場所に近づかないことだ。行政が安全対策を施すのは当然のこととして、最終的に身を守るのは自分自身でしかない。水の怖さ、自然への畏怖(いふ)を忘れないようにしたい。