<社説>摩文仁不法投棄 行政主導で原状回復を


この記事を書いた人 琉球新報社

 これ以上、現状を放置してはならない。

 糸満市摩文仁の国立沖縄戦没者墓苑の海岸に面した崖下斜面一帯に、長年ごみが不法投棄されている。ごみの下に沖縄戦戦没者の遺骨が埋まっている可能性がある。
 本来なら不法投棄した本人に撤去責任がある。だが、行為者が特定できないため撤去が滞っている。それなら行政主導でごみを撤去し、原状回復するしかない。
 不法投棄の現場は、東西約500メートルに及ぶ。日の当たらない急斜面下に1960年代後半ごろのものとみられる炭酸飲料の空き瓶や、弁当箱などのプラスチック容器、廃タイヤなど無数のごみが層を成し、一帯を埋め尽くす。ごみの中から雑草が生えている。
 付近から、これまでに複数の遺骨が見つかっている。このため、遺骨収集作業に当たるボランティアが、清掃活動に取り組んできた。しかし、ごみの量があまりに膨大で民間による撤去には限界がある。厚いごみの層を取り除かなければ、遺骨収集ができない。
 ボランティアの一人は、激戦によって追い詰められた住民が多くの命を落とした摩文仁を「沖縄の聖地」と呼び「聖地がこんなに汚され、その下に遺骨が眠っていると思うと胸が苦しい」と訴える。
 不法投棄現場を保安林地域として所有する糸満市も、ボランティアらと共に撤去作業を続けているが「撤去費用が膨大な上、現場は岩が入り組み危険な地形のため、県の協力が必要」という。
 県は12日、糸満市と現場を確認した。今後、ごみの撤去に向け、関係部署や機関で協議を重ねていくという。時間を置かずに実施してほしい。
 昨年3月、沖縄戦などの戦没者の遺骨収集を促進する戦没者遺骨収集推進法が成立した。遺骨収集の「集中実施期間」を2024年度までと明記し、戦後80年を前に戦後処理を進める。
 厚生労働省は、本年度の遺骨収集事業を23億円に増額した。摩文仁の不法投棄場所が原状回復されれば、国の事業が活用できるのではないか。
 県の推計(16年3月31日現在)によると、沖縄戦戦没者の遺骨は18万8136柱ある。そのうち18万5232柱が収集され、未収骨は2904柱となっている。今年は沖縄戦から72年。一柱でも多く遺族の元に帰したい。