<社説>ビキニ被ばく検証 直ちに被災乗組員調査を


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 第五福竜丸事件として知られる1954年3月の米国のビキニ水爆実験による被ばく被害の全貌は明らかになっていない。高知県を拠点に公文書などの検証・調査を進めている「ビキニ核被災検証会」が初めて沖縄で検証会を開いた。沖縄でも調査を速やかに行い、埋もれた被害者や遺族に救済の手を差し伸べるべきだ。

 米統治下だった沖縄でも多くの船が被災した可能性がある。しかし、公的調査は全くなされなかった。
 ビキニ事件時に汚染マグロを取った船は約900隻に上る。沖縄では、88年に県原水協と県平和委員会が調査し、2隻が被災した可能性が高いと発表した。2隻の乗組員68人のうち17人が40代、50代で亡くなり、そのうち11人ががんだった。
 54年6月9日付本紙は、そのうちの1隻「銀嶺丸」について報じている。米軍によるガイガーカウンター検査で反応は出ず「マグロ類も大丈夫」という見出しだった。本土で放射能マグロが大問題となり、沖縄近海で操業した船の魚が大阪などで放射能が検出され廃棄処分となっていたが、沖縄では廃棄はゼロだった。被害そのものが隠されたのである。
 高知県ビキニ水爆実験被災調査団がまとめた「もう一つのビキニ事件」(2004年)は、沖縄ではマグロ漁船のほかに「貝取り船」十数隻や海人草を採る船も被災した可能性が高いとしている。
 1954年12月、本土では、法的責任を問われないとした上で米政府が慰謝料200万ドル(7億2千万円)を支払い、政府が分配した。漁業関係者は直接損害20億5千万円の3分の1にすぎないと抗議したが無視された。沖縄では補償は全くなされなかった。
 さらに、相次ぐ太平洋での核実験で雨水の放射能汚染も琉球気象台によって観測された。沖縄では8割の人が雨水を飲み水にしていた時代である。雨水汚染の実態も検証すべきである。
 高知県では県議会や高知市議会が昨年、元乗組員らへの健康調査について国に公式見解を求める意見書を全会一致で採択した。さらに政府の不作為をただそうと元乗組員や遺族による国家賠償訴訟も始まっている。
 沖縄でも、被災乗組員の調査に直ちに着手するとともに、雨水汚染の実態を含め健康影響の解明を急がなければならない。