<社説>菅氏の基地リンク論 沖縄振興の原点忘れたか


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 政治的な脅しがまかり通ることは許されない。その姿勢を改めないとあっては政治家の資格はない

 菅義偉官房長官が第5次沖縄振興計画(沖縄21世紀ビジョン)終了後の2022年度以降も、沖縄振興として高率補助や税制優遇などを「現時点においては続けていきたい」との考えを示した。加えて沖縄振興策と基地問題は「結果的にリンクする」との認識をあらためて表明した。
 高率補助などを続けるとの考えはあくまで「現時点」と菅氏が強調したことは、県民への脅しにほかならない。政府の推し進める辺野古新基地建設への沖縄の協力が振興策延長の条件ということだ。
 27年に及ぶ米施政権下で生じた沖縄と本土の格差は、沖縄を切り捨てた政府に責任がある。そのことを菅氏が認識しているならば、基地リンク論など出るはずはない。
 高率補助などを続ける考えを持つことは、10年間の時限立法である沖縄振興特別措置法を延長するということだろう。1971年、山中貞則総務長官は沖振法に基づく高率補助などの原点を「償いの心」とした。菅氏はそのことを忘れてはいないか。
 沖振法の条文のどこを見ても、基地問題と沖縄振興がリンクするとは書かれていない。沖振法の目的は「沖縄の置かれた特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興計画に基づく事業を推進する等特別の措置を講ずることにより、沖縄の自主性を尊重しつつその総合的かつ計画的な振興を図る」と明記している。
 米軍基地は沖縄振興・発展の最大の阻害要因であるとの沖縄の声を重視し、対応することが「沖縄の自主性を尊重」することだ。米軍基地建設と引き換えに沖縄振興を実施するとのリンク論は「政治の堕落」にほかならない。だが、かつてはそうではなかった。
 1997年の復帰25周年記念式典の際、橋本龍太郎首相は振興策は海上基地建設が前提かと問われ、「二つの問題を一緒にされるのはとても悲しく聞こえる」と述べている。
 2015年、山口俊一沖縄担当相は「沖縄の歴史的、社会的、地理的諸事情を勘案した特措法に基づいて沖縄振興を図っている。これは国の責務だ。膨大な国家予算、あるいは待遇と引き換えの米軍基地は論外だ」と明確にリンク論を批判した。
 菅氏はこの発言に学び、沖縄振興の原点に立ち返るべきである。