<社説>戦没遺骨集団申請 DNA鑑定、抜本見直しを


この記事を書いた人 琉球新報社

 沖縄戦の遺骨収集ボランティアを続けている「ガマフヤー」の具志堅隆松代表はこう語る。「遺骨100体のうち名前の分かる遺品が一緒に出てくるのは5体もない」。ほぼ全てが軍人だ。住民は皆無に等しい。住民にとって身元を確認できる手段はDNA鑑定しかない。

 戦没者遺骨のDNA鑑定を民間人にも行うよう、ガマフヤーが7月にも初めて集団で厚生労働省に申請する。遺族の心情を尊重したもので、国は実現に向けて手法を改善し、主体的に取り組むよう求めたい。
 沖縄戦は軍人の戦死より住民の犠牲が多い。しかし、その住民はどこで亡くなったのか分からないのが実情だ。本島南部で拾った石を骨壺に入れている遺族も多い。
 2016年4月に戦没者遺骨収集推進法が施行された。「国の責務」で24年度までに集中的に遺骨収集を進めることが明記されたが、1年たっても厚労省は消極姿勢だ。
 今年3月、DNA鑑定の対象を「歯だけ」から「四肢骨」まで広げたものの、「個体性があるもの」に限定している。頭蓋骨がなかったり、複数が混ざったりしている遺骨は初めから除外される。沖縄では斜面で遺骨が見つかり、雨で流されている事例も多い。遺族は指一本でも帰るのを待ち望んでいるのに、あまりにも冷淡だ。
 具志堅さんによると、先進的な米国や韓国では鑑定に回す前に形質人類学者が関わり、複数の遺骨でも分類できるという。骨の一片からでもDNAを抽出している。
 鑑定を受けられる遺族の範囲を国が狭めているのも問題だ。部隊記録に基づいた関係者に限られ、実質的に軍人・軍属だけになっている。米国、韓国では、希望する遺族は全て受け入れている。高齢化で遺族も減ってきており、速やかに、希望者全員のDNAと見つかった全ての遺骨を照合するのが推進法の本来の精神ではないか。
 戦争は国家が引き起こし、多くの国民の命を奪った国策の過ちだ。遺骨をわが家に帰すのは当然で、国は最低限の戦争責任を取るべきだ。
 遺族には時間がない。一人でも多く身元が判明するように、県も、DNA鑑定を受け付ける窓口や制度を設けて協力してはどうか。国には一刻の猶予も許されない。鑑定対象を広げ、運用を抜本的に見直すべきだ。激戦地跡に眠る全ての遺骨を遺族の元に返すという熱意と本気度を見せてほしい。