<社説>統幕長発言 「政治的中立」を踏み越えた


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 安倍晋三首相が憲法9条に自衛隊の存在を明記する改憲案を発表したことに続き、防衛省制服組トップの統合幕僚長が安倍首相の改憲案を歓迎する発言をした。政治的行為を法で禁じられ、憲法尊重義務のある統幕長の踏み込んだ発言だ。政治的中立性の観点から問題だ。

 憲法に明文化されて、自衛隊にお墨付きを与えることになれば、自衛隊の権限行使のコントロールが自衛隊自身に委ねられる可能性がある。軍事力のコントロールが政治や文官(背広組)の枠を超えてしまう懸念があり、許されない。
 河野克俊統合幕僚長は会見で、安倍首相の改憲案について問われ「一自衛官として申し上げるなら、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることになれば非常にありがたいと思う」と発言した。
 「憲法は高度な政治問題なので、統幕長の立場で申し上げるのは適当ではない」と断った上での発言ではあった。
 しかし、自衛隊法は隊員の政治的行為を制限する。さらに憲法尊重義務のある公務員で「日本国憲法及び法令を順守し」と服務宣誓した自衛官のトップであるという、二重のかせがあるにもかかわらず、あえて踏み込んだ。統幕長として問題のある発言だ。1978年に自衛隊が超法規的行動を取り得ると発言した栗栖弘臣統幕長は「政治的中立」を逸脱したとして更迭された。
 現憲法の平和主義の基となっている日本国憲法9条は1項で戦争放棄を、2項で戦力不保持と交戦権の否認を定めている。
 安倍首相は憲法記念日の5月3日にビデオメッセージで改憲の意向を発表した。憲法9条について「1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」と表明した。
 しかし自衛隊を明記すれば、2項が死文化するとの批判がある。逆に自民党内には、戦力不保持などを削除して国防軍を保持するとした党の改憲草案に反するという反発もある。
 自衛隊は憲法9条が根拠となって行動にさまざまな制約が課されてきた。しかし安倍政権は安保法によって自衛隊の活動の場を「地球の裏側」まで広げ、集団的自衛権の行使を認めさせた。
 法を逸脱した統幕長の発言は平和主義を柱に据える憲法を掲げるこの国にとって危うい兆候だ。見過ごしてはいけない。