<社説>加計文書存在証言 真相究明を強く求める


この記事を書いた人 琉球新報社

 「行政の在り方がゆがめられた」。学校法人加計学園の獣医学部新設を巡る問題で、文部科学省の前川喜平前事務次官は政治が行政をゆがめたと批判した。その批判と疑念に安倍晋三首相をはじめとする関係者は誠実に応えるべきだ。

 森友学園問題によって、権力者に迎合して官僚が先回りして事を進める「忖度(そんたく)」という言葉が一般的になった。今回の前川氏の証言は「総理の意向」を受けて忖度が始まることに加え、時には「意向」を盾にごり押しが行われてきたことを強く疑わせる内容だった。
 「官邸の最高レベルが言っている」などと記載されていた文書について前川氏は「文科省の専門教育課で作成され、昨年9月から10月にかけて受け取った文書に間違いない。幹部の間で共有されていた」「私が現に見て、受け取った。確実に存在していた」と、具体的に述べている。
 文書がやりとりされた時期の事務方トップによる生々しい証言にもかかわらず、松野博一文科相は文書の再調査を拒否した。政府は都合の悪い物はないことにすることを繰り返している。しかし、今度という今度は、国民は「不存在」という説明に納得しないだろう。
 規制緩和をして獣医学部の新設を認めるには条件を満たす十分な根拠が必要だった。前川氏は、農水省や厚労省からそのような根拠が示されないまま「赤い信号を青い信号と考えろと言われた」と述べた。「押し切られた」という認識を示し、自らの責任にも言及した。
 小選挙区制、政党助成金制度の下で党執行部の力が強くなり、自民党内ではかつてのような議論ができなくなったと指摘されている。さらに安倍政権は2014年に内閣人事局を新設し、官僚ににらみを利かせるようになった。慣例を無視した人事を官僚は恐れるようになっているという。
 今回の証言には、このような権力の集中が行政から公平性、透明性を失わせているとの憤りが込められている。安倍1強政権の下、国政の病理は深刻な状態にあるのではないか。
 民進、共産、自由、社民の野党4党が前川氏の証人喚問を要求したが、自民党は即座に拒否した。政府与党はどこまで国民に背を向け、責任放棄を続けるのか。文書の再調査と証人喚問を速やかに行い、真相を究明すべきだ。