<社説>FBI前長官証言 事実なら大統領辞職せよ


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 米大統領選干渉疑惑「ロシアゲート」に関し、コミー米連邦捜査局(FBI)前長官が上院情報特別委員会の公聴会で証言した。トランプ大統領が側近のフリン前大統領補佐官への捜査をやめるよう、コミー氏に「指示」したとの認識を示した。さらにコミー氏に「忠誠心」を繰り返し求めたという。

 事実であれば露骨な司法妨害であり、捜査当局者を意のままに従わせようとする権力の乱用というほかない。
 司法妨害疑惑の発端は米大統領選でロシア政府が民主党候補のクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けたとされる選挙干渉に、トランプ陣営の関与が疑われている件だ。
 フリン氏は政権移行期に駐米ロシア大使と接触し、経済制裁解除という政策内容について話し合っていたと指摘されている。トランプ氏の長女イバンカさんの夫クシュナー大統領上級顧問も捜査対象に挙がっている。政権移行期に駐米ロシア大使のほか、米政府が制裁対象としていたロシア政府系銀行の頭取と面会していたことが発覚している。
 トランプ氏の側近が罪に問われれば政権は大打撃を受けることになる。米国と対立し、制裁も科しているロシア政府と大統領選で共謀して干渉したとなれば、トランプ氏が勝利した選挙の正当性にも疑問符が付くだろう。
 コミー氏によると、同氏はトランプ氏とこれまで2人きりで3回会い、6回電話で話をした。大統領執務室でトランプ氏は前日に辞任したフリン氏への捜査について「大目に見てほしい。彼はいいやつだ」と述べ、捜査の中止を求めたとされる。さらにホワイトハウスでの夕食会で一対一の場では「長官職を続けたいか」と問われたといい、コミー氏は「続けたい」と答えている。トランプ氏は「長官職の希望者は多いし、君がもし辞めたいのなら理解する」と話し「必要なのは忠誠心」と語ったという。
 つまり長官の職にとどまりたいのであれば、私に忠誠を尽くさなければならず、捜査中止に従うよう突きつけた可能性がある。
 もしそうならば、トランプ氏は「忠誠心」をはき違えている。FBIはその使命を「米国民を守り、憲法を支える」と宣言している。FBI長官は大統領に任命されるが、いったん職に就いたら、忠誠心は大統領個人ではなく「米国民と憲法」に向けられる。だからこそ米国司法の独立性、三権分立が確保されているのだ。
 トランプ氏のコミー氏への言動がその通りならば、民主主義の基本原則や米憲法を脅かしていることになる。事実なら大統領の職を辞さなければならない。トランプ氏は「事実ではない」と否定している。宣誓した上で証言にも応じると表明した。身の潔白を主張するのなら、特別検察官の捜査にも協力し、真相究明に力を尽くすべきだ。