<社説>沖縄全戦没者追悼式 「積極的平和」を次世代に


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 沖縄全戦没者追悼式で翁長雄志知事は、憲法施行70年に触れ「平和主義の理念を再確認」し、故大田昌秀元知事の功績である「『平和の礎』に込められた平和の尊さを大切にする想いを次世代へ継承する」と平和宣言した。

 沖縄戦から72年。沖縄戦は本土決戦の準備が整うまで、一日でも長く米軍を引きとめる「出血持久戦」だった。軍民が混在する中で住民の4人に1人が犠牲になった。今後、平和教育の在り方を含め、あらゆる分野で軍隊は住民を守らないという「命どぅ宝」の教訓の継承に取り組みたい。
 憲法の前文に示された理念は、平和学者のガルトゥング氏が唱える軍事力に頼らない「積極的平和」である。平和宣言で翁長知事は、人権侵害、難民、飢餓、貧困、テロなどに対し世界中の人々が民族や宗教の違いを乗り越え、協力して取り組むことを呼び掛けた。まさに「積極的平和」宣言である。
 米国との軍事的一体化に前のめりで、憲法に抵触する集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法を成立させた安倍晋三首相の「積極的平和主義」の対極にある。
 一方、平和宣言は辺野古新基地建設をはじめとする米軍基地問題に半分近くさいている。これが沖縄戦から72年、施政権の返還から45年たった沖縄の現状だ。
 米軍基地の源流は沖縄戦にある。普天間飛行場は米軍が沖縄本島上陸後、住民を収容所に隔離した上で土地を奪って建設された。1945年8月4日時点で、1本の滑走路の71%が完成している。
 日本への出撃拠点とする目的で建設したわけだから、日本の降伏によって目的は果たしたはずだ。ハーグ陸戦条約に従い、その時点で返還すべき軍事施設だ。普天間返還を巡って日米両政府は、名護市辺野古に移設する条件を付けているが、無条件で返還されなければならない。
 安倍首相は追悼式のあいさつで「県内の米軍施設の約2割に相当する北部訓練場の過半、本土復帰後最大の返還が実現した」と実績を強調した。しかし、北部訓練場が返還されても、米軍専用施設面積からすると、これまでの74・4%から70・4%に微減したにすぎない。北部訓練場の過半返還に伴い、ヘリパッドが集約された結果、東村高江に騒音が集中している。
 平和宣言で知事が指摘したように、現状はオスプレイの墜落、嘉手納飛行場でのパラシュート降下訓練や相次ぐ外来機の飛来、移転合意されたはずの旧海軍駐機場の継続使用など「基地負担の軽減とは逆行している」のである。首相は負担軽減を印象操作せず、沖縄の現実を直視しなければならない。
 安倍首相は「できることはすべて行う」と述べた。ならば辺野古新基地建設の断念、日米地位協定の抜本的見直し、海兵隊の撤退に向けて有言実行すべきである。