<社説>沖縄に米軍訓練移転 偽りの負担軽減許さない


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 沖縄の基地負担軽減など一切考えていないことを米軍は自ら証明した。

 米軍が米国内で実施していたパラシュート降下の特殊作戦の合同訓練を沖縄に移転していたことが分かった。嘉手納基地で4月に実施した訓練は米大陸以外では初めてという。合同訓練は夜間作戦も想定しており、嘉手納基地で5月に実施した夜間降下も、合同訓練の一部だった可能性が高い。
 降下訓練が移転されることで、県民がこれまで以上に危険にさらされることは明らかだ。県民の安全を一顧だにしない米軍、それを容認する日本政府に強く抗議する。
 米海兵隊の公式サイトは、降下訓練の移転によって今後は「(米)政府の支出が削減され、沖縄の軍の訓練能力が向上する」と説明している。米軍が考えているのは沖縄での訓練と基地機能の強化ということにほかならない。
 基地周辺には住宅地が広がる。降下ミスはこの間、度々起きている。一歩間違えば周辺住民を巻き込む重大事故になりかねないのである。米軍の都合で降下訓練を移転することは断じて認められない。
 嘉手納町議会は今年4月と5月、嘉手納基地でのパラシュート降下訓練の全面禁止を求める抗議決議を全会一致で可決している。だが、米軍はその時すでに、これまで米国内で実施してきた訓練を沖縄に移転していたのである。
 しかも被害を受ける県民には一切知らせていない。県民を無視する米軍の姿勢を許すことはできない。
 1996年の日米特別行動委員会(SACO)は、沖縄の米軍基地負担の軽減を実現することが目的とされていた。だが、最終報告は目的には程遠い。普天間基地を含む県内11の施設・区域の返還を明記したものの、大半は県内移設が条件である。
 最終報告は、読谷補助飛行場での降下訓練を伊江島補助飛行場で実施するとした。その後、日米合同委員会で「例外的な場合に限り」米軍嘉手納基地で訓練できるとされた。米本国からの降下訓練移転への布石だったと疑わざるを得ない。
 日本政府の同意なしに、米軍が一方的に降下訓練を移転するとは考え難い。沖縄が日本復帰を迎えた直後に開かれた日米合同委員会で、秘密裏に合意された「基地の自由使用」のように、SACO合意で明らかになっていない事項があるのではないか。
 安倍晋三首相は沖縄全戦没者追悼式で「政府として基地負担軽減のため、一つ一つ確実に結果を出していく決意だ」「これからも『できることは全て行う』」と述べた。
 外来機の沖縄への飛来の常態化、米国から沖縄への降下訓練移転などが、安倍首相の言う「負担軽減」ということである。県民要求とは相いれない偽りの負担軽減は断じて許さない。降下訓練の全面禁止を求める。