<社説>年内にも自民改憲案 目先変える道具ではない

 安倍晋三首相が秋に想定される臨時国会に自民党の改憲案を提出すると表明した。首相は年内に改憲原案をとりまとめる意向を示していたが、さらに時期を早めた。

 安倍首相は「自民党の憲法改正推進本部で改正案の検討を急ぐ。憲法施行70年の節目である本年度中に、わが党が先頭に立って歴史的な一歩を踏みだす決意だ」とも語っている。
 年内に憲法改正案の審議を始めて、国会発議できる環境をつくる考えのようだが、憲法を議論するには拙速である。内容の審議が十分できるはずはない。
 森友学園問題や加計学園問題で支持率の急落した安倍首相が国民の関心をそらすため、改憲論議を持ち出したならば、あまりに不誠実である。
 安倍首相は自民党の改憲原案について「臨時国会が終わる前に衆参の憲法審査会に提出したい」と述べた。憲法記念日のビデオメッセージでは、憲法9条に自衛隊の存在を明記する文言を追加することや、教育無償化などを挙げた。
 議論する時間が十分確保できない中、自民党が改憲案のたたき台とするのは2012年にまとめた自民党改憲草案である。
 この草案は天皇を「元首」とし、憲法9条2項の戦力不保持と交戦権否定のくだりを削除し「国防軍を保持する」と明記する。24条の「個人の尊厳」が消え、さまざまな文言で家族の助け合いを強調し、「個」よりも「家」を重視する内容である。これに多くの憲法学者から疑義が出ている。
 改憲については各種世論調査で国民世論は割れている。5月の共同通信調査では、安倍政権下での改憲に賛成は44・5%で、反対の43・4%と拮抗(きっこう)している。
 国の最高法規である憲法を改正するには、国民の幅広い合意が欠かせない。それには国会での熟議が必要だ。
 安倍政権は発足以来、国の重要法案を会期末に強行採決して成立させた。特定秘密保護法、安全保障関連法、カジノ解禁法がそうだ。先の通常国会では参院法務委で採決をせず「中間報告」を用いて「共謀罪」法を成立させた。
 安倍首相や与党の念頭にあるのは18年夏ごろ、憲法改正を発議し、18年度中に国民投票を実施するスケジュールだという。数の力を頼みに首相の目指す「20年施行」に突き進む姿はいかにも危うい。
 「1強」と言われ、高支持率を誇った安倍首相にも陰りが見える。森友、加計両学園問題を巡る事態収拾に失敗して、内閣支持率が急落したまま東京都議選を迎えた安倍首相が、現状打開のために改憲カードを切ったとも見える。
 しかし、改憲論議は世論の目先を変えるためのカードではない。冷静な議論を深めるためにも、期限を切るべきではない。