<社説>劉暁波氏死去 中国は良心の囚人釈放を


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 ノーベル平和賞を獄中で受賞した中国の民主活動家で作家、劉暁波氏が死去した。中国の民主化運動の象徴的な存在だった。

 中国共産党は一党独裁維持のため、民主化や人権状況の改善を求める声を抑え込んできた。しかし、中国は国際人権規約に署名し、2004年の憲法改正で「人権を尊重し保障する」と明記しているはずだ。
 劉氏が訴えたように、全ての国民が恐れることなく政治的見解を表明し、それによって政治的迫害を受けることがないよう保障するのが国家の責務である。
 中国に対し、思想信条を理由に投獄されている全ての「良心の囚人」の釈放と、中国当局の監視下に置かれている劉氏の妻、劉霞さんを解放し希望通り中国からの出国を認めるよう求める。
 劉氏は1989年6月の天安門事件に至る民主化運動で指導的役割を果たした。2008年12月、共産党一党独裁体制の廃止などを訴えた「〇八憲章」を起草したとして拘束され、10年2月に懲役11年の実刑判決が確定した。
 服役中の10年12月、中国で基本的人権の確立のために非暴力的な手段で闘ってきたことが評価され、国内に住む中国人として初めてノーベル平和賞が贈られた。しかし授賞式に出席できなかった。
 今年5月に末期がんと診断された。海外での治療を希望しドイツや米国が受け入れを表明していた。しかし中国政府は、刑務所から病院に移し、当局の管理下で懲役刑の執行が続いていた。この対応は著しい人権侵害だ。
 欧米諸国からの批判に対して、中国外務省の副報道局長は「外国は不適切な意見を述べる立場にない」と反発する談話を発表し、内政干渉しないよう求めた。中国の姿勢はあまりも独り善がりである。
 劉氏は出席を許されなかったノーベル平和賞授賞式に陳述書を送った。「私自身が中国で綿々と続いてきた『文字獄』(言論弾圧)の最後の被害者となり、今後、言論によって罪に問われる人がいなくなることを期待する」と訴えている。
 しかし、習近平指導部は劉氏の期待に反して、統制強化のため国家安全法を施行して人権派弁護士ら約300人を拘束した。少数民族や、キリスト教などの宗教への抑圧も強化している。
 香港が英国から中国に返還されて20年を迎えた今月1日、習氏は香港独立の動きについて「中央政府の権力に対するいかなる挑戦も決して許さない」と強く警告し、香港に対する統制強化の姿勢を示した。
 劉氏の支援者の中には、対中関係悪化を恐れる欧米諸国が中国に対する真剣な批判を控えているとの不満があるという。国際社会は毅然(きぜん)とした態度で、中国が人権侵害を繰り返さないよう働き掛けるべきだ。