<社説>残業代ゼロ容認撤回 過重労働規制こそ優先を


この記事を書いた人 琉球新報社

 働く人を守る労働組合として当然の結論だ。高収入の一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を条件付きで容認していた連合が、容認を撤回した。

 「残業代ゼロ法案」として批判されてきた労働基準法の改正案だ。連合はぶれた姿勢を反省した上で、従来通り反対を貫き、労働者を守る原点に立ち返るべきだ。
 一方で政府は、連合が要請した休日確保措置などを盛り込んで修正する方針だ。残業規制を含む働き方改革関連法案とセットでの成立をもくろんでいる。水と油のような両法案を切り離し、過重労働や残業時間の規制を優先して徹底審議するよう強く求める。
 連合は「残業代ゼロ法案」に一貫して反対してきたが、13日に神津里季生会長が安倍晋三首相に一転して修正案を示し、7月中に修正に合意する方向となっていた。しかし、組織内で十分な議論をしないまま執行部が方針転換をしたことに、傘下の組合や過労死遺族などから予想以上の猛反発をくらっていた。
 「安倍1強」の中で、原案通り成立するよりは妥協して修正案を出す方が得策との考えが働いたようだ。だが、支持率が低下して屋台骨がぐらついている安倍政権に、結果的に助け船を出した形になっていた。
 労働者を守る組織として存在意義を見失った独断は、厳しく非難されるべきだ。目を向けるべきは、政権にすり寄ることではなく、働く者の健康と権利を守ることだ。
 連合が要請した条件は、年収1075万円以上の専門職に、「年間104日の休日」を義務化した上で「連続2週間の休暇取得」「勤務間インターバルの確保」「臨時の健康診断」など4項目から労使に選ばせる内容だった。
 しかし、新制度導入を推進する経団連は、第1次安倍政権時代に「年収400万円以上」と主張していた。一度、新制度が成立してしまうと、アリの一穴で制限は緩和され、長時間労働が増えていくのは火を見るより明らかだ。
 政府は連合の主張を取り込み、秋の臨時国会に提案する構えだ。2015年に提案後2年以上一度も審議されてこなかったので、まずは審議入りを目指す狙いなのだろう。
 政府が狡猾(こうかつ)なのは、残業時間の上限規制を盛り込んだ「働き方改革法案」と、新制度を導入する「労働基準法改正案」を一本化して一括審議を図る点だ。残業規制を人質にしているとしか思えない。
 最優先すべきは長時間労働の抑制だ。法案を切り離して別個に審議した方がいい。
 過重労働の改善は喫緊の課題であり、時代の要請である。県内484企業を対象にした調査でも56%が働き方改革に取り組んでいると答えた。
 働く者の健康や生命に関わる残業時間抑制の法案を優先して早期に成立させ、残業代ゼロ法案は廃案にすべきだ。