<社説>広島原爆投下72年 核禁止条約、日本の責務

 米軍による広島への原爆投下から72年を迎えた。核廃絶運動は今、新たな地平に立っている。核兵器を非合法化する史上初の国際法「核兵器禁止条約」が7月に国連で採択されたからだ。

 しかし、唯一の被爆国である日本は、核保有国などと共に交渉に参加しなかった。核廃絶を願う被爆者への裏切りであり、無責任極まりない。「核のない世界」に向けて国際的役割を果たすべきだ。
 72年前、広島と長崎に落とされた2発の原子爆弾で21万人以上もの命が奪われた。命を取り留めても、健康被害や就職・結婚での差別、2世への影響などに苦しめられてきた被爆者は多い。原爆は生涯影響を及ぼす悪魔の兵器だ。
 核兵器禁止条約には国連加盟国の6割超に当たる122カ国が賛同した。核兵器の開発、実験、製造、保有、移譲を禁じ、さらに「使用するとの威嚇」、つまり核抑止力も明確に否定している。
 いざ核を使えば、人類の存亡や環境にとって不可逆的な地球規模の被害をもたらす。その非道な兵器に、そもそも人類の安全保障を依存していいのか。冷戦時代の思考、呪縛から脱却することを考えないといけない。
 条約前文には「核兵器使用による被害者(ヒバクシャ)の受け入れ難い苦しみと危害に留意する」と明記された。日本の被爆体験が条約の根幹をつくり、採択に至るまでに、被爆者を中心とした息の長い国際的な核廃絶運動が原動力になったと言える。
 にもかかわらず、日本は米国の「核の傘」の下にあるとして、条約に背を向けた。核の悲惨さを最も熟知し、1994年以降23年連続で核廃絶の国連決議を主導してきた姿勢と矛盾する。基地問題と同様、米国に配慮し追従に走る政府の姿が垣間見える。
 オバマ米政権が昨年「核の先制不使用」を検討した際も、反対を貫く日本の説得は難しいとして断念に至った事実も明らかになった。失望を禁じ得ない。
 核軍縮の動きは停滞している。核拡散防止条約(NPT)の再検討会議は2年前に決裂した。一方で北朝鮮は核実験を繰り返している。
 こうした脅威に核保有国は「条約は非現実的だ」と批判するが、核抑止力の正当化にくみするわけにはいかない。
 核廃絶が国際規範となった意義は大きい。条約の実効性を高めるためにも、今後は保有国などにも参加を呼び掛ける努力を粘り強く続けたい。日本は保有国と非保有国に生じた溝を埋める「橋渡し役」を率先して担うべきだ。
 保有国を動かすには国際世論の後押しも欠かせない。現在「ヒバクシャ国際署名」運動が繰り広げられている。2020年までに世界中で数億人分を集める目標だ。
 平均年齢80歳を超えた被爆者の体験をしっかりと継承し、「核兵器の終わりの始まり」につなげていきたい。