<社説>終戦72年 平和国家の存在感示せ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 戦後72年の終戦記念日が巡ってきた。先の大戦の反省を踏まえて再出発した日本にとって、現憲法は一つの理想であり、守るべきものだ。平和と民主主義が守られているのか改めて問い直したい。

 危機感を覚えるのは、本来なら憲法によって縛りがかけられる権力側の暴走が目立つからだ。
 安倍政権は機密漏洩(ろうえい)に厳罰を科す特定秘密保護法を施行し、武器輸出を禁じた武器輸出三原則を廃止した。集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法も成立した。今年に入ってからは犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法も施行された。
 いずれも衆参両院で圧倒的な議席を持つ数の力を背景に、国民的議論の深まりもないまま決められた。これで民主主義が機能しているといえるのだろうか。
 権力者の暴走、国民への情報の遮断、政府の意に沿わない思想への弾圧-。日本を破滅に導いたのは、こうした愚かな行為だったはずだ。安倍政権になってからの日本は、再び同じ過ちを繰り返そうとしているように見える。
 安倍晋三首相はさらに踏み込んで自衛隊の存在を明記した憲法改正も政治日程に挙げようとしている。内閣支持率の低下で最近はトーンダウンしたものの、首相が目標としている改憲への意欲を失ったわけではない。
 戦後70年余りをかけて築いた平和は、日本国民が武力に頼らないことを実践したからだ。発展途上国や紛争地で行った官民による支援も、武器を持たないからこそ現地住民からの支持が得られたことは、パキスタンなどで水源確保、農業支援などをしてきたペシャワール会の中村哲医師らが証明している。
 私たちは、いかなる争いも望んでいない。民主主義を尊重し、世界から争いがなくなることを希求している。そのために不断の努力を続ける必要がある。決して他国の紛争に加担することがあってはならない。
 一方で弾道ミサイルの発射など挑発的行為を繰り返す北朝鮮や、それに武力での対抗を示唆するアメリカなど、わが国を取り巻く状況はかつてないほど緊張を増している。
 だがこうした緊張が増す今だからこそ、平和国家・日本が存在感を発揮しなければならない時期でもある。
 対米従属から脱し、東アジアの平和構築に日本は力を注ぐべきだ。有事になれば、真っ先に住民が犠牲になる。これは沖縄戦で得た教訓だ。東アジア諸国と国境を接する沖縄を軍事拠点でなく、平和拠点にしなければならない。
 今年6月に亡くなった元県知事の大田昌秀氏は沖縄の心を問われ「平和を愛する共生の心」と述べた。
 8・15を迎えるに当たり、先の大戦、そして沖縄戦から得た教訓、反省をいま一度心に刻みたい。