<社説>米軍黒塗り報告書 隠蔽せず説明責任果たせ


この記事を書いた人 琉球新報社

 これで事故報告書と言えるのか。公表が2年後と遅い上に、肝心な箇所をほぼ全て黒塗りにしており、再発防止に積極的に取り組もうとする米軍の姿勢が全く見えない。

 こんな欠陥報告書を基に安全宣言をしたところで誰が信じられようか。速やかに全文を明らかにした上で、県民の生命を脅かす訓練は本国で行うよう強く要求する。
 琉球新報が入手した、うるま市沖の米陸軍特殊作戦用MH60ヘリ墜落事故の報告書197ページは、ほとんど全てが黒塗りになっている。
 事故の概要や事故調査委員会の分析、乗組員の証言など「調査結果」の7項目全てが非開示だ。財務省が森友学園問題の資料を黒塗りして「のり弁当」と批判されたが、米軍も全く同様だ。
 墜落は2015年8月12日に起きた。ヘリが米海軍艦船へのロープ降下訓練の際、回転翼が艦首マストに接触し、コントロールを失った。
 米軍は当初「ハードランディング」(激しい衝撃を伴う着陸)と説明したが、報告書では「クラッシュ」(墜落)と明記している。発生当初は矮小化(わいしょうか)して発表し、報告書で修正するのは、米軍の常とう手段だ。過去にも何度かあり、隠蔽(いんぺい)体質は根深い。
 事故原因は、機長が操作手順を誤った人為的ミスと結論づけているが、事故調査委の詳細な分析を伏せ、真相解明に必要な情報が開示されないのでは説得力がない。
 米軍機が日常的に頭上を飛び交う県民からすると、到底受け入れ難い。再発防止策といくら言っても空手形にすぎない。復帰後、米軍機は平均で年1回以上墜落している。
 日本政府は米軍に全文公表を強く迫るべきだ。事故調の勧告は16年9月で、日本側への提供は7カ月後の今年4月。重大事故でありながら迅速に報告しなかったことを含めて、ただす必要がある。
 そもそも、この事故は疑問だらけだ。発生時に地元通報が遅れた。領海内にもかかわらず米艦船上という理由で日米地位協定が立ちはだかり、第11管区海上保安本部も県警も捜査できなかった。証拠物件の事故機は韓国に輸送されてしまった。陸自隊員2人の「研修」が実態は「共同訓練」だったとの疑いも強い。
 16年12月に名護市安部沿岸にオスプレイが墜落した事故も、いまだ米軍から事故報告書が提供されていない。事故原因も不明なまま「機体には問題がない」として飛行を再開させ、ついには今月5日にオーストラリア沖で普天間飛行場所属のオスプレイがまた墜落した。原因を究明しない限り、再発防止策は実効あるものにはならない。
 米軍はしっかりと説明責任を果たすべきだ。事実を隠すのは、訓練最優先で県民の存在が眼中にないからだろう。全文開示しないのなら、米本国ではできない住宅密集地上空飛行を含め、危険な訓練を即刻やめてもらうしかない。