<社説>基地排水調査却下 「環境保全」に背を向けた


この記事を書いた人 琉球新報社

 米軍は「良き隣人」を目指すことを放棄したのだろう。環境保全に背を向けたことに強く抗議する。日本政府はその姿勢を容認したことを深く恥じ入るべきだ。

 環境汚染を防ぐために、県が実施してきた米軍施設・区域内の下水処理場などの排水の水質調査が2014年度以降行われていない。「日米合同委員会の下部組織の環境分科委員会で、14年度の立ち入り調査が却下された」ためである。
 米軍基地からの排水が原因で環境汚染があった場合、最も被害を受けるのは国民である。納得いく説明が必要だが、日米双方とも説明責任を果たしていない。
 県によると、環境省は「日米間の調整の結果で答えられない」として、水質調査ができない理由を明らかにしていない。環境省の言う「調整の結果」は果たして事実か。これまでの経緯からして、米側が調査拒否を伝え、日本側は何ら異議を唱えずに受け入れたのではないか。
 国民のあずかり知らないところで、環境保全に重要な調査がいとも簡単に中止されたことは看過できない。環境分科委議事録の早期全面公開を求める。
 米軍施設・区域内の水質調査は、環境省から委託を受けた県が1980年度から実施してきた。
 米軍基地内の環境を継続的に調査し、実態を把握することは環境汚染を未然に防止する上で極めて重要である。調査が定期的に行われることで、米側の環境保全意識の高揚にもつながる。調査がないとなれば、米側の意識低下が強く懸念される。
 環境省は「14年に調査方法が変わり、まずは周辺の河川の水質調査を行うことになった。もし基準値を超えた汚染があり、基地由来だとはっきりすれば、日米合同委員会で基地内での調査を検討していくことになる」としている。
 本来ならば、環境汚染の未然防止に有効な方向に調査方法は変わるべきである。環境保全を第一に考えた結果とは到底認められない。新たな調査方法は環境施策の後退である。調査方法の変更は、米軍の意向を反映しているとみて間違いなかろう。
 基地内で定期的に調査していれば、周辺河川の水質が環境基準を超えた際、原因特定は確実に早まる。しかも、新調査方法は基地由来だったとしても、基地内調査が認められるとは限らない。「検討」するだけである。基地内での水質調査の高いハードルを設けたにすぎない。以前の調査に戻すことを求める。
 米軍基地が絡むと、政府の対米追従姿勢が顕著に現れる。米軍の裁量に任せる環境施策では、健全な環境は保全できないとの認識に立って米側と対峙(たいじ)すべきだ。
 政府が対米追従姿勢を改めない限り、基地周辺の環境は危機にさらされ、国民も影響を受け続けることになる。