<社説>米ジュゴン訴訟 差し戻しは賢明な判断


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 名護市辺野古の新基地建設を巡り当事国である米国で、司法が賢明な判断を下した。

 新基地建設が国指定の天然記念物ジュゴンに影響を与えるとして、日米の環境保護団体が米国防総省に工事の中止を求めた米ジュゴン訴訟の控訴審で、サンフランシスコ連邦高裁は、原告の訴えを棄却した一審判決を破棄し、審理を地裁に差し戻した。
 一審の連邦地裁は、外交や防衛問題には司法が介入できないとする「政治的問題の法理」を採用して実質審理を避けた。しかし、今回の連邦高裁は、原告には訴訟を起こす資格「原告適格」があると判断した。今後、ジュゴン保護の実質審理を通して、新基地建設の不条理を米国民に訴える意義は大きい。
 日本政府は、米国で差し戻し審の結果が出るまで、新基地建設工事を中止すべきだ。
 原告側が訴えの根拠としたのは米国の国家歴史保存法(文化財保護法、NHPA)だ。米政府に国内だけでなく他国の法で保護された文化財も保護対象とすると定めている。原告はこれまで、ジュゴンは日本の文化財保護法に基づく天然記念物であり、米政府は保護する義務があると主張してきた。
 一審の中間判決は、国防総省がジュゴンの保護計画を作成していないことは違法との判断を示していた。このため国防総省は「ジュゴンへの影響はない」と結論づけた報告を提出した。日本政府の環境アセスメントなどを踏襲した内容だが、日本のアセスは生物多様性への影響を十分考慮したものとは言えない。
 沖縄防衛局のジュゴン生息調査で、辺野古北側の嘉陽沖や西海岸の古宇利島沖などでジュゴン3頭を確認していた。しかし、3頭のうち1頭が2015年6月を最後に約2年間、同じ海域で確認できていない。
 ジュゴンが来ないのは、新基地建設工事に伴い大きな環境変化が生じ、ジュゴンの生息に影響を与えたことの証拠だ。環境は保全されていないのである。差し戻し審で、ジュゴンに影響なしとした国防総省の報告を、しっかり検証してもらいたい。
 一方、連邦高裁は「環境分析を終え最終的な計画を策定した上で、普天間飛行場代替施設計画(FRF)に着手している」という日本政府の主張に納得していない。「一時停止や再開、計画変更を繰り返しているのが現状だ」と指摘しているからだ。
 指摘のように沖縄防衛局は新たな海上ボーリング調査を計画している。海上ヤードの設置も取りやめとなっており、今後、設計や工法など工事計画が大幅に変更される可能性が浮上している。
 変更するならNHPAに基づく新たな分析が必要になるだろう。連邦高裁からすれば「議論は収束していない」のである。差し戻し審で、ジュゴン保護に関する審理が尽くされることを期待する。