<社説>最低賃金引き上げ まだ十分な額ではない


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 県内の最低賃金が早ければ10月から、現行の時給714円から23円引き上げられて737円となる。上げ幅の23円は1991年度と並び過去最高だが、非正規労働で生活するには、まだ十分な額とは言えない。

 最低賃金はパート労働者を含む全ての働く人に適用され、これを下回る賃金は違法となる。
 毎年の最低賃金額は、労使が参加する国の中央最低賃金審議会が改定の目安額を提示し、都道府県ごとに決められる。沖縄は目安額として22円の引き上げとしていたが、沖縄地方最低賃金審議会はさらに1円上乗せした。好調が続く県内景気や、それに伴う人手不足を加味したようだ。
 安倍政権が3月に公表した「働き方改革実行計画」には「最低賃金が千円になることを目指す」と引き続き明記されている。計画では「企業収益は過去最高」と評価したものの、労働分配率は「近年低下傾向にある」と認める。そして、景気の好循環とアベノミクスの進展のために労働者の賃金を引き上げ、企業収益の好調さに比べて低い労働分配率を上昇させることが重要とうたう。
 しかし、毎年のように最低賃金千円を掲げる割には歩みは遅い。全国平均は848円だが、引き上げが働き方実行計画に掲げる「年3%程度引き上げ」のペースでは、千円到達にはあと6年ほどかかる。
 しかも、沖縄など8県は全国最低額で、最高額の東京都の958円とは221円の差がある。今回の改定で地域間格差はこれまでより3円広がった。
 時給737円では、週40時間、フルタイムと同じように働いたとしても年収は150万円に届かない。家計を支えるには厳しい額だ。
 しかも、沖縄は非正規雇用の割合が全国一高い。総務省就業構造基本調査(2012年)によると、県内の非正規雇用率は44・5%で、全国平均の38・1%を大きく超える。
 さらに、最低賃金を下回る給与、いわゆる最賃破りが沖縄県は5・2%で、全国平均を3・3ポイントも上回るという。
 働く人の半分近くが非正規雇用であり、長らく全国で最も低い最低賃金が続いている。その最低賃金さえも守られない例がある。こうした点が沖縄の低所得、ひいては貧困を生んでいる。
 幸い、県内は観光客の増加などによる好況が続き、直近6月の有効求人倍率は1・18倍で、9カ月連続で1倍を超えた。さまざまな業界で人手が不足し、企業も待遇改善に力を入れ始めている。
 非正規雇用の人の正社員化を進めるのはもちろんだが、非正規でも憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する必要がある。足腰の弱い中小零細企業への支援策を行いつつ、最低賃金を目標額まで引き上げるべきだ。