<社説>加計獣医学部保留 疑念残れば認可許されぬ


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 文部科学省の大学設置・学校法人審議会は学校法人加計学園の獣医学部新設の申請に対する判断を保留した。今月末とみられていた文科相への答申は10月以降にずれ込む見通しとなった。

 政府の国家戦略特区制度を活用した獣医学部新設を巡る手続きは、あまりに不可解なことが多い。政府は設置審の答申前に、国民に対して納得のいく説明を尽くすべきだ。
 加計学園の獣医学部新設で、今治市が3月に所有地を無償譲渡し、県とともに最大96億円に上る施設整備費助成を決めている。4月には大学教授らで構成する設置審が文科相の諮問を受けて教育内容や設備、財務状況など多岐にわたる項目を審査した。入学定員や教員の構成について見直しを求め、学園も計画の修正に応じていた。
 入学定員は当初160人で、獣医師を養成する全国の学部の総定員が2割増となるほどの規模だった。教員も65歳以上や経験のない若手の割合が他の大学より高いといわれていた。こうした状況を見直したにもかかわらず、判断が保留された。大学設置基準に照らしても計画に疑義が生じているためだ。
 今回の判断保留は学生の実習計画が不十分で、学園が掲げるライフサイエンス分野の獣医師養成に課題があることなどが理由とみられている。学園は今後、計画見直しに取り組むことになるが、それを解決できたとしても問題は残る。閣議決定の4条件を満たしているのかが不明なのだ。
 政府は2015年6月に閣議決定した「日本再興戦略」で、獣医学部の新設条件として(1)既存の獣医師養成ではない構想が具体化(2)近年の獣医師の需要動向を考慮する(3)新分野における具体的需要が明らか(4)既存の大学では対応が困難-の4項目を挙げた。
 これについて前川喜平前文科次官は「合致するか十分な議論がされていない」と証言している。ところが特区担当だった山本幸三・前地方創生担当相は「具体的な需要を完璧に描ける人はいない」と述べた。条件を満たしているのかと問われても「最終的に私が確認した」とするが、根拠となるデータは一切示していない。
 巨額の公金がつぎ込まれる事業にもかかわらず、担当閣僚が条件を満たせているかについて、明確に答えられない。あまりに無責任だ。
 野党4党は6月末、真相を究明するため、臨時国会召集の要求書を衆参両院に提出したが、政権は応じなかった。自民、公明両党は数日前になって、やっと9月25日に召集することを確認している。要求書提出から3カ月後だ。あまりにも遅い。
 首相の友人が理事長を務める加計学園が「総理のご意向」の恩恵にあずかり優遇された可能性も払拭(ふっしょく)されていない。こうした数々の疑念が晴れない限り、獣医学部新設を認可することは許されない。