<社説>トランプ政権混迷 分断を広げてはならない


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 大国を率いるリーダーたり得るのか。トランプ大統領が人種差別をあおるような発言を繰り返し、社会の分断を広げている。

 米南部バージニア州であった白人至上主義団体の集会で、反対した市民との衝突で死傷者が出た。トランプ氏は「双方に非がある」と述べ、白人至上主義のKKK(秘密結社クー・クラックス・クラン)やネオナチなどの極右勢力と、人種差別に反対する市民を同列視する認識を示した。
 その後も発言を撤回することなく、南北戦争で奴隷制存続を訴えた南軍の記念碑撤去の動きを「愚かだ」と一蹴し、奴隷制を容認したと受け取られ、反発を招いた。
 多様な民族や人種が共存する米国に共通する価値観は、多様性とそれを認め合う寛容さだろう。人種差別の否定は、公民権闘争などの苦い歴史を経て築き上げたものだ。多様性を認める社会がさまざまな才能を引き付け、米国の繁栄を築いてきた。トランプ氏の発言はそれを傷つけるものだ。
 実際、経済界や軍からも批判が出た。大企業の首脳らでつくる二つの政策助言機関は抗議の辞任が続き、解散に追い込まれた。メンバーだった医薬品メルクの最高経営責任者(CEO)で黒人のフレージャー氏は「米国のリーダーは憎悪や偏見を明確に否定しなければならない」と述べた。
 米陸軍のミリー参謀総長が「人種差別や過激主義、憎しみを許さない」と表明するなど、米陸海空軍の制服組トップも相次ぎ反人種差別の声明を出した。
 米政権の不安定要素はトランプ氏の資質だけでなく、内部の混乱にもある。
 右腕の大統領首席補佐官の交代に続き、広報部長も10日で更迭。大統領選から米国第一主義を推進して勝利の原動力となった主席戦略官バノン氏を突然解任するなど側近の辞任が相次ぐ。行政府の幹部職員も、上院の承認が必要な重要ポスト577のうち承認されたのは117だけだ。
 大統領選から撤退すると表明していた米軍のアフガン駐留は方針転換し、期限を切らずに勝利を目指すと明言した。発言の危うさや政策のぶれが世界に混乱をもたらし、信頼関係を損ねていることをもっと自覚すべきである。
 さらなる懸念は、米国社会の溝を深めた影響が、欧州やアジアなど世界に及ぶのではないか、ということだ。
 グローバル経済の進展は、繁栄を生んだ半面、そこから落ちこぼれた人々との格差を広げ、社会に対する不満をうっ積させた。
 その受け皿として、欧州では移民排斥を掲げる政党が躍進し、難民の受け入れを拒否する国が出ている。世界各地で起きるテロは憎しみの連鎖を生み、特定の宗教に対する偏見や差別を増幅させている。
 米国は多様性を尊重した自由と平等な社会のお手本となるべき存在だ。分断の発信源となるべきではない。