<社説>救急車出動急増 抜本的対策確立が急務だ


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 2016年度の県内18消防本部の救急出動件数の合計は7万5599件で、前年度より4196件(5・9%)増加した。全ての消防本部が増加しており、増加率では熊本県の7・9%に次ぐ全国2位の高さだ。

 熊本県は大地震が発生したことによる自然災害関連の出動で急増している。沖縄県はこうした突発的な大災害は起きていない。その中での2位の増加率は、全国的にも突出しているといえる。こうした状況に現場は「救急医療が崩壊する可能性がある」(豊見城市消防)との危機感を募らせる。抜本的な対策の確立が急務だ。
 要因の一つは高齢化だ。65歳以上の搬送件数の増加が顕著で、増加件数が県内一多い沖縄市消防は、増加した607件のうち6割近くの355件が65歳以上だ。次に多い那覇市消防は464件のうち330件が65歳以上だ。実に7割を占めている。
 老人介護施設からの搬送が増加したり、起立困難な独居高齢者が受診日に病院まで搬送を依頼したりする事例があるという。高齢化が進み、搬送件数の増加傾向は今後も続く見通しだ。救急体制の拡充も必要ではないだろうか。
 総務省消防庁は今年4月から、出動する救急車1台に救急隊員3人以上の乗務を義務付けている基準を緩和した。3人のうち1人は「准救急隊員」に任命した自治体職員や消防団員らを充てることが可能になった。
 対象は過疎法で指定された797市町村と離島振興法指定の112市町村に加え、沖縄の離島も含まれている。隊員不足が生じている消防は積極的に導入してほしい。
 増加のもう一つの大きな要因が「不要・不急」とみられる不適切な利用の拡大だ。「タクシー代がない」との理由で要請したり「1人暮らしの高齢者が話し相手が欲しくて頻回に救急要請」したりする事例が起きている。
 不適切な利用が増大することで、深刻な事態が起きることを認識する必要がある。不要・不急な救急要請が相次ぐと、生命の危険にさらされて、本当に救急車を必要としている急病人の元への到着が遅れる懸念が生じるのだ。
 専門家は「自分の都合で呼んでいないか、一度立ち止まって考えることが必要だ」と指摘する。利用者側の意識改革も求められている。
 一方で、症状によっては救急車を呼ぶべきか判断に迷う時がある。消防庁は3月末から、けがや症状で緊急度を判定するサイト「全国版救急受診ガイド・Q助」を運用している。症状を尋ねる質問に答えていくと「いますぐ救急車を呼びましょう」などの結果が出てくる。救急要請の判断材料にしてほしい。
 日々の暮らしを安心して送るには、救急医療の維持は欠かせない。住民、行政、医療機関が連携を深めて、救急体制を支えたい。