<社説>やんばる国立公園1年 奇跡の生態系守り抜こう


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 本島北部の国頭、大宜味、東の3村の陸域1万3622ヘクタール、海域3670ヘクタールが「やんばる国立公園」に指定されてから、15日で1年を迎えた。

 国内で33番目、県内では1972年の西表石垣、2014年の慶良間諸島に次いで3番目の指定だ。指定日の9月15日は1983年に国頭村で固有種ヤンバルテナガコガネが発見された日だ。多様な生命を育むやんばるの森の大切さを再認識する日としたい。
 やんばるには国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がる。そしてヤンバルクイナやノグチゲラなど多種多様な固有動植物と希少動植物が生息、生育している。
 3村は日本の国土面積のわずか0・1%にすぎない。そこに日本全体で確認されている鳥類の約半分、在来のカエルの約4分の1の種類が生息している。驚くべきほどの多様な生物が生息している。
 生き物にとって楽園ともいえる環境を支えているのが森林だ。やんばる地域が位置する北緯27度付近の世界の亜熱帯地域を見渡せば、その多くが砂漠や乾燥地帯だ。しかしやんばる地域の森林率は80%以上だ。
 この奇跡ともいえる生態系で暮らす在来生物が現在、生存の危機にさらされている。外来生物の侵入が原因だ。飼われていたイヌやネコがやんばるに捨てられ、野生化して繁殖している。これらノイヌ、ノネコが絶滅危惧種のオキナワトゲネズミ、ヤンバルクイナなどを捕食している。
 やんばるの生態系を脅かしているのは人間の身勝手な行動だ。裏を返せば、人間が改めれば回復できることを意味する。県民全体に突きつけられている問題だろう。
 国立公園の指定後、貴重な自然に触れようと、多くの人々がやんばるを訪れるようになっている。関心が高まっていることを歓迎したい。その一方で、自然破壊につながる利用が散見されている。
 車両進入禁止の国頭村の与那覇岳の登山道をオートバイで走り抜けたり、自然海岸にキャンピングカーを乗り入れたりする人が出ている。たき火をして放置したり、ごみを置き去りにしたり、手つかずの自然を台無しにする行為も横行している。自然保護と利活用の両立も課題だ。
 米軍施設と隣接する国立公園も国内では初めてだ。米軍北部訓練場では指定の前後、新たなヘリパッド(ヘリ着陸帯)が相次いで建設され、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイがやんばるの森を飛行し、騒音をまき散らしている。
 国立公園は日本を代表する自然の風景地を保護し利用促進を図るのが目的だ。米軍施設の存在は明らかに国立公園の趣旨に反する。米軍北部訓練場は過半ではなく、全てを返還するべきだった。
 やんばるを取り巻く状況は極めて厳しい。一つ一つの課題を克服し、持続可能な利用と保護を両立させ、生態系を守り抜く努力を重ねたい。