<社説>敬老の日 経験や知恵を学びたい


この記事を書いた人 琉球新報社

 県内の100歳以上の高齢者が過去最多の1162人になった。1997年は315人だったので、20年間で3・7倍と大幅に増えた。

 きょうは「敬老の日」。長寿者が多いのは喜ばしいことだ。激動の時代を生き抜き、今日の沖縄を築き上げてきた先輩方に深く感謝したい。
 アフリカにこんな格言がある。「一人の高齢者が亡くなると図書館が一つ消える」。高齢者が積み重ねてきた豊富な経験や知識、知恵が失われてしまうことを惜しむ金言だ。
 これは世界共通の概念だろう。高齢者は社会にとって不可欠な資産であると再認識した上で、高齢者から学び、その蓄積を引き継いでいく姿勢を持ち続けたい。
 沖縄では戦争体験者が人口の15%を切ったといわれる。若い世代が苛烈な地上戦の実相を継承し教訓を学んでいくには、体験した高齢者の存在が欠かせない。それこそ生きた「図書館」だ。
 加えて、戦後史を学ぶことも勧めたい。米統治下での人権侵害や不条理な事件・事故、民主主義を求めた大衆運動、米国文化との出合いなど、復帰前後の出来事を身近な高齢者から聞いてみる。個人が歩んできた半生が沖縄の戦後史と重なり、より現実感を伴って伝わるはずだ。
 それ以外にも、人生経験に裏打ちされた含蓄のある話は、若い世代にとって羅針盤ともなる有益なものだろう。核家族化などで高齢者と接する機会は減りつつあるが、耳を傾ける場をつくりたい。
 高齢者とは何歳からだろうか。一般に「65歳以上」と定義されているが、日本老年学会は「75歳以上」に引き上げるよう1月に提言した。確かに、体も心も頭も活発で元気な人が増えている。
 政府は2012年改定の「高齢社会対策大綱」で65歳以上の高齢者の認識を大きく見直した。従来の「支えられる人」から「意欲と能力のある人には社会を支える側に回ってもらう」への転換だ。
 働く人に占める65歳以上の割合は年々増加し、16年には約12%だった。元気な高齢者の力を社会に還元してもらうのは望ましい方向だ。
 今、この方針をさらに拡大する対策大綱の見直し作業が始まっている。選択の幅を広げ、高齢者の就労を促すことが改定の柱だが、一方で、年金の受給開始を70歳より後に遅らせる内容も含まれているため慎重な議論が必要だ。
 高齢になるほど健康状態や経済状態の個人差は大きいとされる。さまざまな理由で社会参画できない高齢者には、行政や社会が支援を手厚くしていかなければならない。
 介護や医療、年金などの社会保障制度の在り方も論議する必要がある。
 高齢者が安心して年を重ね、生きがいを感じながら地域と関わって暮らす。豊かな老いを実感できる社会にするためにどう支えていくか。改めて考える日にしたい。