<社説>パラシュート訓練 米本国に移転すべきだ


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 日本政府の無力ぶりが際立っている。

 県や地元市町村が反対する中、米軍は米空軍嘉手納基地でパラシュート降下訓練を実施した。米軍は「わずか3回」と強調するが地元からすると「3回も強行」である。
 1カ月前にワシントンで開催された日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で、日本側が嘉手納基地での降下訓練を取り上げ、地元の「懸念」を伝えたばかりだ。
 降下訓練は、1996年の日米特別行動委員会(SACO)の合意をほごにしている。しかし、外務、防衛両大臣が日本政府の立場を伝え、強く要請した形跡は見えない。実際には地元の強い要望に「配慮」し「理解を得るための努力」を米側に求めたにすぎなかったことが、これではっきりした。その気がないのである。
 政府が今回の訓練を「遺憾」と表明するだけなのも、訓練制限に向け具体的な行動を起こさないことにも合点がいく。あきれた従属ぶりではないか。
 SACOで、降下訓練は米軍読谷補助飛行場から米軍伊江島補助飛行場で実施すると合意したはずだ。その後、2007年の日米合同委員会で「嘉手納基地を例外的な場合に限って使用」することに合意した。
 この合意が抜け道になっている。米軍が「例外」と言えば、訓練を実施できるからだ。ちょうど日米で合意した航空機騒音規制措置(騒音防止協定)が、米軍が運用上必要だと主張すれば、午後10時以降の夜間飛行が可能であるのと同じ理屈だ。日本政府は、07年の日米合同委員会の合意を撤回すべきだ。
 米軍はSACO合意すら読み替えている。米軍は21日の声明で「SACO最終報告では嘉手納ドロップゾーン(降下場所)について触れていない」と指摘した。
 つまり「嘉手納基地では実施しない」とは書いていないから、嘉手納での降下訓練は可能ということか。
 それならSACO合意を骨抜きにする一方的な解釈であり、認められない。うるま市津堅島訓練場水域での降下訓練も「SACO最終報告では津堅島について触れていない」と解釈しているのかもしれない。
 降下訓練は危険だ。今年1月、伊江島補助飛行場でパラシュート降下訓練中だった米陸軍所属の米兵1人が、フェンスを越えて同村西江前の民間地に着地した。過去に民間人の死亡を含む事故を何度も引き起こしている。
 そういう危険な訓練を伊江島で実施すること自体反対だ。日本政府は沖縄の負担を軽減すると繰り返し主張してきた。それならSACO合意を見直し、降下訓練の移転先を「伊江島」から「米本国」にするよう変更すべきだ。日本と米国が対等な関係なら当然の要求だろう。