<社説>首相、衆院解散表明 さっぱり理解できない


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 なぜ解散するのか。安倍晋三首相の記者会見を聞いてもさっぱり分からない。

 消費税率を8%から10%へ引き上げる際、使途を国の借金返済から子育て支援策に変更する点や北朝鮮対応について信を問うという。安倍首相は「国民と国難を乗り越えるため、国民の声を聞かなければならない。国難突破解散だ」と述べた。
 「国難」と言うなら選挙によって政治の空白をつくらず、消費税も北朝鮮問題も国会で議論すればよい。
 野党4党は森友学園、加計学園を巡る政府の説明が不十分として6月、憲法53条の規定に基づいて臨時国会召集の要求書を衆参両院に提出していた。冒頭解散となると、疑惑を解明する国会の責任を放棄することになる。憲法にも抵触するのではないか。
 首相は森友学園、加計学園問題に関し「丁寧に説明する努力を重ねてきた。今後もその考えに変わりない」と強調した。だが「丁寧に説明した」と理解を示す国民はいるだろうか。
 7月に安倍首相が出席して加計問題に関する閉会中審査を開いた。議論がかみ合わず疑念は払拭(ふっしょく)されるどころか、さらに募った。「総理の意向」で行政がゆがめられたのかどうか、疑惑の解明は止まったままだ。
 共同通信社が衆院選を前に実施した全国電話世論調査(第1回トレンド調査)によると、森友、加計学園問題を巡る政府の説明に納得できるかどうかについては「できない」が78・8%で、「できる」は13・8%にすぎない。
 河野洋平元衆院議長は日本記者クラブで会見し「一度も丁寧な説明をしないで解散するのは理解できない」と述べた。同時に「権力者の側が都合の良い時に解散する。過去になかったことではないか」と指摘した。自民党の重鎮から見ても、疑惑隠しの大義なき解散なのである。
 第1回トレンド調査によると、現時点で比例代表の投票先は自民党が27・0%で、民進党8・0%の3倍以上となった。小池百合子東京都知事の側近らが結成する新党は6・2%だった。安倍内閣の支持率は45・0%、不支持率は41・3%。望ましい選挙結果に関しては「与党と野党の勢力が伯仲する」が49・3%。首相は内閣支持率が回復しているこのタイミングで解散に踏み切ったのだろう。
 しかし、内閣改造からまだ2カ月。首相が「仕事人内閣」と名付けた新内閣は、国会で演説も質問も受けずに解散する。このような国会と有権者を軽視するやり方は許されない。
 解散により森友、加計学園の疑惑解明をはじめ、北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る国会論議も、「残業代ゼロ」制度導入の是非など働き方改革関連法案も先送りになる。
 今回の衆院選は解散の在り方と、問題先送りの政治手法が問われるべきだろう。