<社説>ギャンブル依存症 カジノ法より対策が先だ


この記事を書いた人 琉球新報社

 日本が世界有数の「ギャンブル大国」であることが数字で裏付けられた。生涯でギャンブル依存症の経験が疑われる人は推計3・6%との結果が、厚生労働省の調査で明らかになった。

 カジノ解禁に向けた論議が前のめりで進んでいるが、それよりも先に依存症対策の強化を急ぐ必要がある。
 調査では、生涯で依存症の時期があったと疑われる人は3・6%(男性6・7%、女性0・6%)で、国勢調査データから計算すると約320万人にも上った。最近1年間の依存症疑いは0・8%(男性1・5%、女性0・1%)で、推計約70万人だった。
 調査方法が異なる海外との単純比較はできないが、生涯での依存症疑いはオーストラリア(男性)2・4%、フランス1・2%、イタリア0・4%、ドイツ0・2%だ。日本の突出ぶりが際立っている。
 競馬や競輪といった公営ギャンブルやパチンコ・パチスロなどが身近な所でできる日本の環境が、依存症の多さと関係していると専門家は指摘する。
 実際、今回の調査では、依存症疑いの人の8割がパチンコ・パチスロに最も多くの賭け金を費やしていた。
 ギャンブル依存症は単なるギャンブル好きとは違う。世界保健機関(WHO)が定める、れっきとした精神疾患だ。
 多重債務や家庭崩壊、金銭トラブル、自殺などに加え、犯罪を引き起こす恐れもある。かつては当事者の意思の弱さのせいにされたこともあったが、医師らによる専門的治療が必要な病だ。性格や職業、学歴に関係なく誰でもなる可能性がある。
 政府はカジノ解禁に向けて統合型リゾート施設(IR)整備推進法案を秋の臨時国会に提出する方針だった。同時に、提出済みのギャンブル依存症対策法案の審議も予定していたが、突然の衆院解散で廃案になった。
 カジノ法案はともかく、対策法案まで先送りされたのは残念だ。総選挙後に再提出しても成立までには一定の時間を要する。ここにも大義なき解散の悪影響が表れている。
 政府は8月に関係閣僚会議を開き、依存症対策を強化することを決めていた。
 競馬や競輪、オートレースなどの投票券のインターネット購入は、本人の申告で購入限度額を設定できる仕組みを導入する。
 依存症患者が一番多いとされるパチンコについては、出玉を従来の3分の2程度に減らし、射幸性を抑える。
 他にも治療プログラム開発や啓発活動、相談窓口の整備に力を入れるというが、カジノ導入を推進したいがための弥縫(びほう)策ではないことを願う。
 ギャンブル依存症が多いにもかかわらず、政府は対策を長年放置してきた。カジノ法案を廃案にした上で、根本的なギャンブル規制強化と、実効性ある本格的な依存症対策に力を注ぐべきだ。