<社説>初の「泡盛月間」 「世界」視野に販路開こう


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 風土と結び付いた酒は、その地の文化の重要な位置を占める。泡盛も沖縄文化にとって欠かせないものだ。その泡盛の消費が低迷する中、県酒造組合は今年初めて11月を「泡盛月間」と定め、県内外で泡盛の普及に向けた企画に取り組んでいる。

 特筆すべきは月間中に開催される24の企画のうち、七つが県外、四つが海外で開かれることだ。海外では北欧での泡盛販路拡大や中国福建省での沖縄フェア出展、スペインでの試飲会などがある。
 国内にとどまらず「琉球泡盛」が世界を視野に販路を拡大する契機としたい。酒造各社の努力だけでなく、行政にも最大限の支援を求めたい。
 2016年度まで泡盛は12年連続で出荷量が減るなど、業界は苦戦が続いている。
 だが17年は新たな展開を予感させる出来事があった。沖縄国税事務所を中心とした研究グループが味や香りを表現する際の参考となる「フレーバーホイール」を作成した。ホイールを活用した人材育成も始まり、品質の向上や消費者の選択の幅が広がることが期待される。
 政府も酒類の輸出促進に向けた指針を定め、泡盛に関しては米国、中国を重要市場と位置付け、市場開拓に取り組む。内閣府の泡盛振興検討会も消費拡大策を提言した。
 県内メーカーも北欧市場への参入や、県外向け泡盛の共同輸送による経費削減に取り組んでいる。官民挙げて反転攻勢に移った年といえる。
 蒸留酒はジンやウオッカ、ウイスキーなどが世界中で愛飲され、後発ともいえる泡盛にとって当初は厳しい状況もあるだろう。だが泡盛にも優位性はある。例えば土地の名を冠する「地理的表示」が認められ「琉球泡盛」として販売できることだ。
 ブランデーの「コニャック」、発泡性ワインの「シャンパン」のように地理的表示が認められるのは、品質の高さも意味する。「琉球」の名によって質を保証するだけでなく、独自の王朝文化を育んだ「物語性」を含むものとして売り込むことも可能だ。
 1989年に亡くなった作家の開高健さんは次のような言葉を残している。
 「ウイスキーは人を沈思させ、コニャックは人を華やがせ、ワインは人をおしゃべりにする」
 それぞれの特性を言い当て、うなずくところが多い。
 酒に一家言ある大家にならえば、時間を刻み込んだ泡盛の古酒は人を沈思させ、仲間とともに飲む泡盛は場を華やがせ、おしゃべりにする。
 一つの酒で多様な側面を持つのが泡盛の素晴らしいところだ。この魅力を多くの人に知ってもらいたい。
 嗜好(しこう)の多様化によって、泡盛を取り巻く環境が依然として厳しいのは間違いない。だが世界に目を向ければ市場は無限に広がる。2017年が泡盛にとって転機となることを願いたい。