<社説>新TPP「大筋合意」 結論急がず説明果たせ


この記事を書いた人 琉球新報社

 環太平洋連携協定(TPP)参加11カ国による閣僚会合で、新たな協定案について「大筋合意」が発表された。

 しかし、英文の閣僚声明は「主要項目で合意」と、日本政府の発表とは微妙に違う。体裁だけは何とか整えた形だが、今後、最終合意や発効までには難航が予想される。
 日本は米国の協定復帰を目指して今回の交渉を主導したが、性急の感は否めない。12カ国のTPP合意の時と同様に、国内向けの説明が欠落している。農業分野を中心に懸念は山積しており、国民の不安を置き去りにしたままの「大筋合意」だ。
 そもそも、今回の交渉は不可解続きだ。閣僚会合でいったん大筋合意したと発表した翌日に、カナダが異論を唱えたため、予定されていた首脳間合意は失敗に終わった。
 ぎりぎりの調整で何とか閣僚声明の公表にはこぎ着けたものの、通常は参加11カ国の閣僚が一堂に会して結束を示す記者会見は、ついになかった。表に出たのは議長国の日本とベトナムの閣僚2人だけだった。前途多難の行く末を暗示するかのようだ。
 米国が要求していた項目など20項目は米国が復帰するまで凍結し、カナダやマレーシアが求めた4項目の協議は先送りにした。
 首脳同士が合意を確認したという強い担保はなく、今後、各国が署名に向けて積極的に動くかは不透明だ。関係国の対立を解消することも必要になる。現時点では、発効の時期は見通せない。
 11カ国が結束を固めれば、貿易面で不利となる米国が翻意して、戻ってくる可能性が高まると期待していた日本の目算は外れた。甘い見込みだったと言えよう。
 TPP離脱は、トランプ大統領にとって選挙公約の柱の一つだ。来日時にも「正しい考えではない」と復帰を否定していた。任期中に復帰する見通しは極めて厳しい。
 新TPP案は、著作権保護期間などルール分野の一部を凍結したものの、農林水産物などの関税撤廃・削減については変更していない。
 11カ国が大筋合意しても、米国は2国間の自由貿易協定(FTA)締結を求め、TPP以上の市場開放を強く迫ってくるはずだ。ノーと言えない日本は押し切られてしまうのではないか。
 そうなると、新TPPの枠に日米2国間の枠も加わり、特に農業分野で強引に輸入拡大を求められる。沖縄の畜産業も不利益を被ることが予想される。
 こうした不安に政府はどう応えるのか。
 現TPPの国会審議は拙速だった。国民の疑問や懸念に真摯(しんし)に向き合わず、丁寧な説明も欠いていた。数の力で強行採決し、押し切った。
 TPPは国民生活に大きく関わる。安倍政権はまず説明責任を果たすべきだ。国会でも結論を急がず、深い議論を重ねてもらいたい。