<社説>日馬富士暴行問題 品格ない横綱は引退を


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 角界の不祥事がまた繰り返された。

 大相撲の東横綱日馬富士関が10月の秋巡業中、酒席で平幕貴ノ岩関をビール瓶で殴るなどの暴行を加えて頭部にけがを負わせたことが明らかになった。横綱は暴行の事実を認め謝罪した。
 99年ぶりに3横綱2大関が不在という異常事態の先場所で、一人横綱の日馬富士は横綱の威厳を守り、7場所ぶり9度目の優勝を果たしたばかりだ。
 横綱は「品格、力量抜群につき」推挙される。その横綱が品格を著しく欠いた。被害届が提出され、刑事事件の可能性も高まっている。
 日馬富士関は新横綱に昇進した時「横綱としての責任を果たし、ファンの皆さんに勇気と希望、喜びを与えたい」と語っている。今場所は2場所連続10度目の優勝を狙っていただけに、ファンの期待を裏切った。
 横綱は土俵の内外で周囲の模範となるよう振る舞わなければならない。日馬富士関は歴代の横綱たちが築き上げた伝統を傷付け、大相撲全体の評価を落とした。もはや横綱の資格はない。責任を取って引退すべきである。
 日本相撲協会関係者によると、日馬富士関は10月下旬に鳥取県内で開かれたモンゴル出身力士らが出席した酒席で、貴ノ岩関が生活態度を注意された際にスマートフォンを気にしたことに激怒して暴行。白鵬関、鶴竜関の両横綱も同席していたという。貴ノ岩関は「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」と診断され、11月に一時入院。九州場所は初日から休場している。
 一方、相撲協会の当事者意識の薄さも問題だ。
 協会は力士暴行死事件、大麻事件、元横綱朝青龍の暴行問題、暴力団観戦問題など数々の不祥事を受け、講習会を開くなどして力士の指導を徹底した。協会による積極的な宣伝活動やファンサービスでようやく人気が回復したばかりだった。年6場所、90日間が全て大入りとなるのは21年ぶりである。
 しかし、今回の暴行問題で、暴力体質の根深さが浮き彫りになった。にもかかわらず、九州場所初日を翌日に控えた11日の臨時理事会では議題どころか、話題にすら上らなかった。力士間の単なるトラブルとの認識でしかなかったという。暴力行為を間接的に知りながら事実上、放置していたことになる。
 問題が発覚した14日も経過報告にとどまり、本場所開催中を理由に日馬富士関や師匠への処分を先送りした。横綱本人の事情聴取は実施のめどは立っていない。かつてのように協会の隠蔽(いんぺい)体質は変わらず、自浄能力がないとみなされても仕方ない。
 最終結論が12月にずれ込む可能性もあるというが、それでは信頼回復は遠のくばかりだ。危機管理委員会で直ちに対応すべきだ。