<社説>大飯原発再稼働同意 優先すべきは住民の安全


この記事を書いた人 琉球新報社

 福井県の西川一誠知事が関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に同意した。立地するおおい町と県議会に続く知事の同意で、再稼働に向けた地元同意手続きは完了した。

 放射能汚染は県境を越える。再稼働は福井県だけの問題ではない。滋賀県と京都府は一部が大飯原発の半径30キロ圏に入っており、避難計画の策定が義務付けられている。両府県を無視して再稼働することは認められない。
 大飯原発の約14キロ西には関電高浜原発があり、3、4号機が既に稼働している。両原発に挟まれた地域の住民は、同時に事故が起きれば、東西どちらに逃げても事故が進展中の原発に向かっていくことになる。
 にもかかわらず、両原発の事故時の住民避難計画は同時事故を想定していないのである。安全を軽視した国の再稼働ありきの姿勢の反映と言えないか。原子力災害のリスクを過小評価してはならない。
 福井県は廃炉が決まった原発も含め、全国最多の15基が若狭湾沿いに立地する。
 集中立地のリスクについて、東京電力福島第1原発事故を検証した国会事故調査委員会は報告書で、第1原発に6基あったことや、約12キロ離れて第2原発が立地していたことが事故収束を困難にしたと指摘している。大飯、高浜両原発の危険性は明らかだ。
 政府が10月に了承した住民避難計画に基づく訓練について、知事は「態勢が整えば実行したい」とし、再稼働前に実施する必要はないとの考えを示した。災害や事故はいつ起きるか分からない。訓練よりも再稼働を優先するような姿勢はいかがなものか。
 大飯原発は再稼働から5年程度で使用済み燃料プールが満杯に近づく。知事は使用済み燃料を一時保管する中間貯蔵施設を県外に建設するよう求め、関電の岩根茂樹社長は「2018年中には具体的な計画地点を示す」との方針を表明した。
 知事はそのことも、同意の重要な判断材料だったとの認識を示している。だが、迷惑施設である中間貯蔵施設を受け入れる自治体があるのか疑問である。
 日本世論調査会が9月に実施した調査では、原発再稼働に63%が反対と回答している。安全性に対する国民の不安は払拭(ふっしょく)されていない。原発を再稼働させる環境にはないのである。
 そもそも、福島第1原発事故を教訓にすれば「脱原発」を目指すべきだ。
 知事の同意を受けて、関電は「安全最優先で再稼働に全力で取り組む」とのコメントを発表した。だが、国民の懸念は根強い。
 関電は3、4号機の稼働で料金を値下げし、新電力に奪われた顧客取り戻しに注力する方針である。企業の論理が住民の安全より優先されることがあってはならない。電力会社は今こそ、原発頼りの経営から脱却すべきだ。