<社説>「ジュゴン」独自調査 新基地阻止の突破口に


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 名護市辺野古の新基地建設の中止を求めた米ジュゴン訴訟の原告団が、来年5月に始まる差し戻し審に向けて県や地元住民ら利害関係者を対象に、環境への影響などについて独自で聞き取り調査する。

 新基地建設阻止を目指す沖縄の取り組みへの強い後押しになる。日米両政府のかたくなな姿勢を崩す突破口へとつなげたい。
 米サンフランシスコ第9巡回控訴裁判所(連邦高裁)は今年8月、米裁判所には新基地の工事中止を命じる権限がないとして訴えを棄却した一審の判断を破棄し、審理を差し戻した。
 沖縄防衛局は8月から9月にかけて実施した調査で、辺野古・大浦湾に近い国頭村の辺戸岬や安田地先海域で、国の天然記念物ジュゴンの鳴き声を180回確認したとしている。
 その一方で、大浦湾では防衛局が大型コンクリートブロックを投下した2015年1月以降、ジュゴンの姿は確認されていない。
 新基地建設工事がジュゴンの生息環境を悪化させるなど、深刻な影響を与えているのは明らかである。
 米国家歴史保存法(NHPA)は、米政府に世界各国の文化財の保護策を示すよう義務付けている。上告を見送った国防総省もNHPAに基づき、利害関係者から聞き取り調査し、協議も行う。
 国防総省が実施する調査結果の是非は、ジュゴン訴訟で最大の争点となる。だが、国防総省はこの間、NHPAが求める義務に対し、後ろ向きな姿勢に終始してきた。
 連邦地裁は08年1月、国防総省が新基地建設でジュゴンへの影響などを評価、検討していないと判断し、NHPA違反と認定した上で、環境への影響調査を実施するよう求めた経緯がある。
 国防総省は14年4月、「ジュゴンへの影響はない」と結論付けた報告書を提出した。だが、これもいい加減なものだった。生物多様性豊かな海域への影響を十分考慮したとは到底認められない日本政府の環境アセスメントなどを踏襲したものだった。
 これまでの経緯からして、国防総省の調査は信用性に欠けたものになりはしないか。懸念せざるを得ない。
 原告である自然保護団体・米生物多様性センターのピーター・ガルビン氏は「われわれが同時進行で協議することで、国防総省がこれ以上、真実を隠蔽(いんぺい)できないよう監視したい」と述べている。
 原告団が独自調査することで、国防総省の調査が適正かどうかをチェックできることの意義は大きい。
 米原告団は2カ月以内に、NHPAに精通する学者らからの意見も参考に利害関係者を選び、県内での聞き取り調査も進める。日米の関係者が連携を密にして環境破壊の実情を訴えて訴訟で勝利し、新基地建設中止を日米両政府に突き付けたい。