<社説>元米軍属に無期懲役 地位協定の改定が急務だ


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 殺人罪と量刑で検察の求刑を認めたのは妥当な判断だ。

 米軍属女性暴行殺人事件で、殺人や強姦致死などの罪に問われた元海兵隊員で事件当時軍属のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告の裁判員裁判で、那覇地裁は殺人罪を認定し無期懲役を言い渡した。
 判決はケネス被告が被害者の後頭部を打撃棒で殴ったり腕や手で首を絞めたりしたほか、ナイフで首の後ろ側を刺したと認定し「殺意が認められる」と判断した。
 痛ましい事件を二度と引き起こしてはならない。実効性ある再発防止策は日米地位協定の抜本改定と、被害女性の父親が求める「一日も早い基地の撤去」である。
 ケネス被告は黙秘権を行使し供述を拒否した。公判中に反省や被害女性、遺族に対する謝罪はなく、最後に「私は本来悪い人間ではない」と釈明した。両親からすれば、胸が張り裂けるような発言だっただろう。
 判決は「被害者には、何の落ち度もない」と断言。「被害者の無念さは計り知れない。残された両親が、犯人に対して極刑を求めるのは、当然である」と理解を示した。
 「なぜ殺されなければならなかったのか」。娘を失った父の悲痛な訴えは、1995年の米兵による少女乱暴事件や、55年の幼女暴行殺人事件の記憶と重なる。戦後72年たってなお基地被害にさいなまれる。繰り返される事件を防げない日米両政府に重い責任がある。
 県議会は、事件に対する抗議決議と意見書を全会一致で可決した。遺族への謝罪と補償などのほか、初めて海兵隊の撤退を求めた。昨年6月の県民大会は約6万5千人(主催者発表)が抗議の声を上げ、米兵の特権意識を助長すると指摘される日米地位協定の見直し議論が再燃した。
 これに対し、日米両政府は今年1月、日米地位協定で身分が保障される軍属の範囲を縮小する補足協定を締結した。政府は協定締結を「画期的」と自賛したが、11月30日現在、米軍から軍属の縮小数の通知はない。ケネス被告から「軍属」の肩書きを外したにすぎない。
 補足協定は、圧倒的多数の米兵に対する事件・事故の抑止につながらない。米兵による事件・事故は繰り返されているからだ。
 基地外で罪を犯した米兵らが基地内に逃げた場合、日本側が起訴するまで原則的に身柄が引き渡されない特権の是正など、日米地位協定の抜本的な見直しを求める。
 問題はまだある。公務外の事件・事故で、米軍人・軍属が被害者から賠償請求を迫られた場合、支払い能力がなければ日米地位協定に基づき米国が慰謝料を払う。
 だが、補足協定によりケネス被告は軍属ではなくなった。地位協定に基づき補償されるか不透明だ。遺族に対し最大限の対応をすべきだ。