<社説>エルサレム首都認定 和平遠のく無謀な判断


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 米歴代政権が「公正な仲介者」として、中東和平に取り組んできた努力を台無しにしする決定だ。思慮に欠けた無謀な判断を強く非難する。

 トランプ米大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある米大使館の移転準備を指示した。
 パレスチナが東エルサレムを、将来の独立国家の首都と位置付けていることを承知した上での首都認定である。軽率のそしりを免れない。
 トランプ氏の判断を歓迎したのは、東エルサレムを含むエルサレム全域を「不可分の永遠の首都」と主張するイスラエルだけだ。パレスチナ自治政府やイスラム諸国は一斉に反発した。当然である。
 中東和平交渉は2014年に暗礁に乗り上げ、再開のめどは立っていない。トランプ氏のせいで、和平交渉の早期再開は絶望的になった。中東和平は遠のいたと言わざるを得ない。
 トランプ氏は首都認定の正式発表に際し、中東和平実現に「深く関与し続け、全力を尽くす」と述べた。パレスチナ側の信頼を失い、どう関与するのか。
 エルサレムの首都認定と米大使館移転を求める法律は1995年、議会が可決した。だが、歴代大統領は実施を先送りしてきた。エルサレムを首都と認定し大使館を移転すれば、デリケートな中東のバランスが崩れる。歴代政権は均衡を保つことを最優先したのである。
 一方、トランプ氏は中東情勢への深刻な影響を考慮せず、自らの公約を最優先させた。歴代大統領にあった賢明な判断力が、トランプ氏には欠けている。
 トランプ氏は「20年以上たっても和平は進展しておらず、従来と同じ手法を取るのは愚か」とも述べた。愚かなのはどちらか。
 首都認定に対し、イスラム過激派からはパレスチナを支援するための武力闘争を呼び掛ける声明も発表された。中東情勢の不安定化が強く懸念される。米国民をはじめ、世界が今後、危機に直面することも危惧される。
 欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表は「われわれをさらに暗い時代に導くかもしれない」と述べ、トランプ氏の決定を批判した。
 パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの共生を目指す「2国家共存」の実現こそが中東の安定につながる。だが、仲介役を投げ出したトランプ氏は「双方が望めば支持する」と消極姿勢である。
 80年の国連安全保障理事会決議は、エルサレムに大使館などを置かないと定めている。国際社会は「エルサレムの帰属はイスラエルとパレスチナの交渉で決めるべきだ」との立場だ。
 トランプ氏はこの間、国際社会の安定を一顧だにせず、米国や自身のことだけを考えてきた。だが、今回の決断は米国の国益にも反している。