<社説>子育て2兆円新政策 将来につけ回していいか


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 政府は教育無償化を柱とする2兆円規模の新しい政策パッケージをまとめた。次世代の育成に焦点を当てるという方向性は評価できる。しかし、安倍晋三首相が衆院選前にぶち上げた公約を短期間でまとめたため、制度設計も財源確保も曖昧で、場当たり的だと言わざるを得ない。

 財源に充てるとする消費税増税の増収分は本来、国の借金返済に充てるとしていた。国の借金抑制策の財源の一部を少子化対策に回し、そのために残った借金を将来世代に回すようでは本末転倒だ。
 幼児教育・保育の無償化では、0~2歳児の保育所は住民非課税世帯を対象に、3~5歳児は認可保育所や幼稚園は原則全員が無償化となる。しかし、議論となっていた認可外保育施設をどうするかは結論を先送りした。
 沖縄では保育園児の19%は認可外に通う子どもたちだ。県によると、認可保育所の児童数4万9099人に対し、認可外は1万1724人。認可に入れなくて認可外を選ぶ人もいる。ただでさえ、認可外は公的補助に大きな格差がある。1人当たりの年間補助額の平均が、3歳児で認可は84万円であるのに対して、認可外が6万4千円。その差は13・1倍に及ぶ。無償化の線引きをどうするのか。不公平感がさらに広がってはならない。
 高等教育の無償化は住民税非課税世帯が対象で、大学だけでなく短大や高専、専門学校も含む。国立大は入学金と授業料を免除するが、私立大は上限を設ける。ただ、住民税非課税世帯に準ずる低所得世帯への具体的措置が書かれていない。これで公平性を保てるのか。上限の水準も議論になろう。
 教育無償化は「人づくり革命」の一環としてまとめられた。所得にかかわらず教育の機会を得る機会は必要だ。ただ、少子化対策に本腰を入れるなら、まずは待機児童を解消し、仕事と子育てを両立しやすくすることだ。ひいては人手不足解消にもつながるだろう。
 パッケージでは保育の受け皿を32万人分整えるとしているが、待機児童解消が遅々として進まない状況では不安が残る。
 財源は消費税増税の増収分の使途変更による1兆7千億円と、企業の拠出金を増額する3千億円を充てるとしている。だが、全ての施策を実行するためには2兆円を大幅に超えるのは確実だという。
 財源不足を理由に認可外保育所を無償化から外すとの当初方針は、世論の反発を受けて即座に取り下げた。私立高校授業料の実質無償化も、財源のめどが立たないにもかかわらず公明党の主張をのんだ。
 このまま歳出拡大が進めば、国の借金がますます増え、財政健全化が遠くなることが懸念される。大盤振る舞いの後始末を次世代に負わせてはならない。