<社説>防衛予算6年連続増 「専守防衛」逸脱を懸念


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 北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出を理由にした歯止めがきかない防衛費増強を憂慮する。

 2018年度の防衛費は対前年度比1・3%増の5兆1911億円。6年連続増で過去最高となった。他の経費が軒並みマイナスとなる中で突出している。
 国会論議が尽くされないまま、憲法9条に基づく専守防衛を逸脱するような決定は認められない。
 憂慮するのは、航空自衛隊戦闘機に搭載する3種類の長距離巡航ミサイル導入関連費用を計上したことだ。
 導入を決めた3種類のミサイルの射程は約500~900キロ。沖縄にも配備されているF15戦闘機に搭載される。那覇からでも中国の上海に達する。さらに北朝鮮の制空権内に接近することなくミサイル発射台などを狙える。日本海上空から北朝鮮の弾道ミサイル発射台をたたく敵基地攻撃が可能な射程を持つ。専守防衛に反する。
 菅義偉官房長官は「専守防衛」の方針に変わりないと強調した。敵基地攻撃能力については「日米の役割分担の中で米国に依存しており、見直すことは考えていない」と述べたが、疑わしい。
 なぜなら敵基地攻撃能力保有の議論は自民党内にくすぶり続けているからだ。中谷元・元防衛相は9月の会合で「憲法は『座して死を待つ』ものではなく、敵基地攻撃は可能だ」と政府に検討を促した。自民党外交部会長代理の山田宏参院議員は、11月に党本部で開かれた「北朝鮮による拉致問題対策本部」会合で、敵基地攻撃能力保有への検討推進を求めた。
 さらに、防衛省が将来的に海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦で運用することも視野に、短距離で離陸できるF35B戦闘機の導入を本格的に検討していることを懸念する。中国の海洋進出へ対応するため、当面は南西諸島での運用を想定しているという。
 護衛艦であってもF35B戦闘機を搭載すれば軍事的には「空母」と位置付けられる。政府は一貫して「自衛のための必要最小限度を超えるため、攻撃型空母の保有は許されない」と説明してきたはずだ。空母を保有すれば、専守防衛を逸脱してしまう。
 周辺国が警戒し、軍事力を増強すれば軍拡競争となり、安全保障のジレンマを招く。
 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、16年の世界の軍事費(一部推計値)は約184兆円で前年比0・4%増だった。全体の81%を15カ国が占める。1位は米国、2位は中国。日本はロシア、サウジアラビア、インド、フランス、英国に続く8位だ。
 一方で、政府は生活保護費を見直し、受給世帯の3分の2に当たる67%を減額する。受給者の生活を支えられるか疑問だ。社会保障費を抑制する中で、防衛費だけ例外扱いにする必要はないはずだ。