<社説>首相、改憲に意欲 必要なのは国民的議論だ

 安倍晋三首相は4日の年頭記者会見で「今年こそ、憲法のあるべき姿を国民にしっかり提示し、改憲に向けた議論を一層深める」と年内の改憲発議に意欲を示した。

 だが待ってほしい。日本世論調査会が昨年12月に実施した全国世論調査で、憲法9条の改正について「必要ない」は53%、安倍首相の下での改憲にも53%が反対している。
 国民の過半数は現政権での改憲を望んでいない。首相が示すべきは結論ありきの日程ではなく、本当に憲法を変える必要があるのか、その根拠である。今必要なのは憲法がどうあるべきかという国民的議論だ。国民の総意がないまま、国会の数の論理で議論を進めることは危険極まりない。
 先の世論調査で改憲の国会論議を「急ぐ必要はない」と回答したのは、自民支持層に限っても59%、連立与党の公明支持層でも64%あった。
 安倍首相を支持する立場の人々でも拙速な改憲論議は望ましくないと考えている。その理由を首相自身はどう受け止めているのか。
 国民が安倍首相に改憲への手続きを委ねたくないのは、その政策と発言に由来すると考えられる。
 従来認められなかった集団的自衛権の行使に道を開いた安全保障法制に代表されるように、憲法の理念を政権の解釈だけでないがしろにした。
 憲法が権力の行為を制限する立憲主義に対しても、安倍首相の姿勢には疑問がある。
 2014年2月の衆院予算委で、首相は憲法解釈について「最高責任者は私です」と答弁した。別の答弁では「(憲法が国家権力を縛る考え方は)王様が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方で(今は)日本という国の形、理想と未来を語るものではないか」と述べた。
 安倍首相の答弁からは、時の権力者の意向が憲法解釈に最も反映するという考え方、権力を制限するためでなく国家が国民を導くための憲法という思考が透けて見える。
 憲法は国民一人一人の幸福を追求するものだ。同時に国民の権利を保護するために、権力の暴走を抑える役割もある。立憲主義への理解が十分とは言えない安倍首相が改憲論議を主導するのは疑問だ。
 焦点となっている9条改定も安倍首相の望む方向に議論が進むが、それでいいのか。
 安倍首相の提起を受け、9条への自衛隊明文化などが争点とされる。だがそもそも9条を変えるべきなのか、自衛隊の役割とは何なのか、平和主義の下で新たな国際貢献組織として自衛隊を再編できないのか、論点は多いはずだ。
 そうした論点整理もないまま、9条改憲を政治日程に乗せることに国民は納得していない。政党も国民も安倍首相の示した土俵の上で踊らされてはならない。がっぷり四つの議論こそ最優先の課題だ。国民は安倍首相の独り相撲に付き合う気は毛頭ない。