<社説>観光客最高939万人 所得向上に結び付けよう


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 2017年の県内入域観光客は初めて900万人の大台を突破し、過去最高の939万6200人となった。沖縄経済をけん引する観光業の好調さは18年も続く見込みだ。

 クルーズ船をはじめ、海外から沖縄を訪れる人はさらに増える。観光客1千万人時代が視野に入る今、観光産業の質を改めて問い直したい。さらには観光産業からの波及効果、雇用効果を県民所得向上へとつなげる方策が必要だ。
 沖縄観光を下支えするのは外国人客の急増だ。17年に外国から沖縄を訪れたのは約254万人で22・1%増えた。入域観光客の7割を占める国内客も4・9%増えてはいるが、伸び率では桁違いだ。
 クルーズ船の寄港回数が増えたことや外国との直行便就航などアジアに開かれた玄関口として、沖縄の認知度が高まってきた成果といえる。
 外国人客の増加に伴い、ホテルも長期滞在を目的とした高級化が進む。恩納村や石垣市などに大手が展開するほか、南城市では医療ツーリズムを取り入れたホテルも事業を進める。
 観光業界の努力によって「観光の質」向上は今後も進む見通しだ。次の課題は「観光産業の質」にある。所得の向上、生産性の向上、仕事へのやりがいといったことだ。観光産業に従事する県民にとって、沖縄の基幹産業として誇れる在り方を獲得できるかが重要になってくる。
 経済産業省がまとめた「沖縄の地域経済分析」(11年)によると、観光に関係する宿泊・飲食サービス業の従業員は県内で5万2600人いる。全産業に占める構成比は12・1%で卸売り・小売り(21・1%)、医療・福祉(15・7%)に次いで3位だ。全国平均の宿泊・飲食サービス業は従業員構成比で8・7%にとどまる。
 しかし事業活動により生み出した価値(付加価値)を従業員数で割った労働生産性で見ると、沖縄が1人当たり157万円なのに対し、全国平均は184万5千円と27万5千円の開きがある。
 1人当たりの報酬から見ても沖縄のサービス業は313万2千円にとどまるが、全国平均は413万9千円となっている。年間100万円もの賃金格差があるのだ。
 人手不足による長時間労働の常態化を解消するなど観光産業の働き方を変えるのは当然として、国内外から観光地としての認知度が高まった沖縄の価値を見直す時期に来ているのではないか。量的な拡大と同時に、質的向上も進む沖縄が提供するサービスの価値はもっと高いといえる。
 例えば京都府では官民一体の取り組みによって、観光消費額が08年の6500億円から16年には1兆円を超える急成長を遂げた。ハワイや京都といった観光先進地に学ぶことはまだまだある。
 従業員が多い観光産業で働く人の底上げは、県民所得全体の向上につながるはずだ。