<社説>鉄軌道の推奨ルート 総合交通体系の視点必要


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 沖縄本島の鉄軌道導入に向けて、県が設置した有識者の検討委員会が推奨ルート案を決定した。那覇から浦添、宜野湾、北谷、沖縄、うるま、恩納を通り、名護に至る「C派生案」だ。

 過度に自動車に依存した沖縄の交通体系は、もはや限界に来ている。鉄軌道だけではなく、バスやモノレール、タクシーなどと連携した総合的な公共交通体系の観点から包括的に議論し、今後の計画を進めていくべきだ。
 沖縄鉄軌道計画検討委員会(委員長・森地茂東京大名誉教授)は那覇と名護を1時間で結ぶ七つのルート案を比較検討してきた。
 (1)利便性(2)採算性(3)事業費と建設期間(4)施工性と環境への影響-を基に、推奨ルートを絞り込んだ。事業費は約6100億円と最安ではないものの、集客地域の広さや乗客数から最良と判断した。
 慢性的な渋滞は沖縄が抱える積年の課題だ。経済的損失、時間的損失に加えて、観光イメージの悪化、環境や健康への負荷など多方面に悪影響を及ぼす。
 本紙が今月から始めた連載「交通改革-未来への地図」では、渋滞による弊害が多角的に報じられている。
 那覇市の混雑時の自動車の走行速度(2012年度)は時速16・9キロと全国ワーストで、14年度はさらに悪化した。
 車社会は加速しており、17年の自動車保有台数は113万台と30年間で2倍以上に増えた。レンタカーも年々増え3万5千台に達している。
 一方で、鈍化したとは言え、バス離れも深刻だ。16年度の輸送人員は約2600万人。30年間で3分の1に減った。陸上交通全体に占める鉄道・バスの人員輸送の割合は沖縄はわずか3・2%で、全国平均29・9%の10分の1だ。自家用車が9割と極端に高い。
 鉄軌道の整備には渋滞解消への期待も大きい。そのためには他の交通機関との有機的な連結も欠かせない。
 検討委は基幹の鉄軌道から分かれる支線は路線バスの活用を提言している。次世代型路面電車(LRT)やバス高速輸送システム(BRT)なども同時に考えるべきだ。
 推奨ルートで懸念されるのは、大半が地下トンネル方式になっている点だ。用地買収期間の短縮という利点はあるかもしれないが、建設コストが膨らみ、実現性が遠のいてしまうのではないか。
 国は採算性の厳しさを理由に沖縄の鉄軌道整備に慎重姿勢だ。しかし、国などの公共予算で整備し、鉄道会社は運行に専念する「上下分離方式」がある。検討委の試算では、上下分離だと開業後30年で黒字化できる見通しだ。
 整備新幹線は上下分離で進められている。沖縄は戦後、国鉄の恩恵も受けていない。戦後補償の一環として、上下分離で国が関わるべきだ。
 検討委は2月から意見を公募する。多くの県民の声を反映した鉄軌道にしてほしい。