<社説>介護報酬改定 専門人材確保が課題だ


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 高齢者の自立を促して生活の質を高め、介護費用の抑制を図る。理想的な一挙両得策に見えるが、国の狙い通りに高齢者の要介護度の改善を促すには、自立型を支援する介護施設と専門知識を備えた職員が必要だ。人材の確保は大きな課題である。

 厚生労働省が3年に1度の介護報酬の見直しの内容を公表した。リハビリによって高齢者の自立支援や重度化防止を進める事業所に配分を重点化するのが特徴だ。終末期の高齢者が増えていることを背景に「みとり」へ対応する介護施設への報酬を加算する。
 高齢者の自立支援に努力した事業所に報いる狙いは評価できる。現在の仕組みでは要介護の状態が悪化すれば費用も増える。逆に質の高いサービスで高齢者の状態が改善すると、事業所は減収となる。
 これはおかしいとの指摘は以前からあった。実際に福井県や岡山市など一部自治体は、成果を上げれば報酬を払う独自の仕組みを既に導入している。
 ただ、今回の「報酬」加算は1人当たり月30~60円で、認定も複雑だ。即、効果が出るとは考えにくい。
 さらに高齢者の生活を支える介護予防やリハビリ、状態の回復には、自立支援型ケアの手法の確立が必要となる。それにはさらに専門性を持つ人材が必要だ。
 しかし、介護分野の人材不足は深刻化している。介護職員の平均給与は月約22万円と全業種より10万円以上安く、離職率も高い。人手不足が職員の負担増を招く悪循環になっている。
 逆に家事代行などの生活援助サービスは報酬を引き下げる。ただ、独居などでヘルパーらによる家事援助で生活を維持できている高齢者も多い。個々の事情に応じた援助も必要だ。
 今改定では訪問介護のうち生活援助について、研修を受けた幅広い人材の参入を図る。介護福祉士など専門性のある職員は身体介護に集中してもらうためだ。介護の質を維持するための研修なども欠かせない。
 介護報酬は介護サービスを提供する事業者に支払われる報酬で、いわば価格表だ。利用者の自己負担は1~2割で、残りを40歳以上が支払う保険料と国、地方の税金で賄っている。報酬を引き上げるとサービスの充実が期待される半面、利用料や保険料は上がる。今年4月の改定では全体で0・54%の引き上げが決まり、国の必要財源は約140億円増える。現役世代や国、自治体の財政を圧迫することになる。
 団塊の世代が全て75歳になる2025年の超高齢社会に向けて、いかに介護費用の膨張を抑えつつ、介護ニーズの増加に対応するかは難しい課題だ。しかし、介護保険の趣旨が社会全体で介護を支えることである以上、知恵を絞って持続可能な介護制度へ向け、対策を模索するしかない。