<社説>米の核指針転換 危険極まる愚かな決定

 国際的な核軍縮の潮流に逆行した愚かな決定だ。

 トランプ米政権が新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を公表した。核兵器の使用に道を開く内容で、「核なき世界」を目指したオバマ前政権の方針を大きく転換した。
 世界を核戦争の恐怖に導くもので、危険極まりない。これを歓迎する日本政府の姿勢も疑問だ。両政府を厳しく批判し、再考を強く求めたい。
 新指針は、核以外の通常兵器やサイバー攻撃を受けた場合の報復にも核を使うことを盛り込んだ。核の先制不使用政策も否定した。
 さらに、小型核の開発も明記した。従来の核兵器は爆発力が強くて使いづらいため、爆発力が低く現実的に使いやすい核兵器が必要だと主張する。具体的には、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載する核弾頭などを指す。
 中国やロシア、北朝鮮の脅威を強調した上で、核兵器の役割を評価し、核使用のハードルを下げる。あたかも際限のない核軍拡へ突き進む宣言のようだ。時計の針を冷戦時代に逆回しする思考は容認できない。
 新指針は、核廃絶を「非現実的」と指摘し、昨年7月に採択された核兵器禁止条約についても「非現実的な期待に頼っている」と批判した。
 核兵器禁止条約は核の開発・保有・使用を全面禁止する初の国際法だ。悪魔の兵器を拡散させず、核依存の安全保障政策から脱却したいと願う国際世論を背景に生まれた。
 推進役となった「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」にノーベル平和賞が贈られたのも、その土壌を受けたものと言えよう。
 これに背を向け、核兵器が戦争を抑止するという「核抑止論」に固執することこそ、倒錯した思考ではないか。
 米国による核攻撃の恐れが増すことで、むしろ、他国も同様に核の増強に踏み切る危険性が高まる。世界情勢の不安定化を招き、軍拡競争の連鎖に陥ってしまう。
 核拡散防止条約(NPT)は米ロ英仏中の5カ国に核保有を認める代わりに、核軍縮交渉を義務付けている。米国がその努力を放棄するのは無責任であり、許されない。
 日本政府の歓迎姿勢にも大きな疑問が残る。河野太郎外相は新指針を「高く評価する」と肯定した。唯一の戦争被爆国とは思えない発言だ。
 日本は核保有国と非保有国の橋渡し役を務めると明言しているにもかかわらず、米国の核方針転換に追随した。言葉と行動が伴わず、国際社会からの批判も強まろう。
 核禁止条約への交渉不参加に加えて、またもや被爆者を裏切る行為だ。
 日本は核廃絶を促すべき立場にある。米国に対して軍縮を進めるよう毅然(きぜん)と忠告する役割こそ求められる。
 日米両政府とも核抑止力に溺れるのではなく、その呪縛からいち早く脱却すべきだ。