<社説>在外被爆者賠償棄却 援護法の精神を踏まえよ


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 広島と長崎で被爆後に帰国した韓国籍の男女31人が長く被爆者援護法の適用外とされたのは違法として、遺族約150人が国に損害賠償を求めた集団訴訟の判決で、大阪地裁は原告側の全面敗訴を言い渡した。

 判決は提訴時点で本人の死後20年以上が経過し、民法の「除斥期間」で請求権が消滅したことだけで適用の可否を判断した。国外に住む被爆者を長く救済の枠組みから外してきた国の無責任さを放置し、原告を救済しない理不尽な判決と断じるほかない。
 在外被爆者は1974年~2003年の間、国の通達に基づき医療費支給などの適用外だった。07年に通達の違法性を認めて国家賠償を命じた最高裁判決が確定し、国は裁判所が事実認定することを条件に和解での賠償に応じてきた。除斥期間の経過にかかわらず、国が和解してきた遺族は延べ約6千人いる。
 だが、国は16年秋以降から方針を一転させ、死後20年以上が経過した遺族への賠償を拒否するようになった。
 国は方針転換以前、同様に除斥期間が経過したケースでも遺族延べ175人と和解している。同様なケースにもかかわらず、賠償を受けることのできない遺族がいることはどう考えても不公平である。大阪地裁は、国の差別的な扱いを黙認したと言わざるを得ない。
 遺族側の「著しく正義、公平に反する」との当然の主張に対して、判決は「国は単に不注意で除斥期間の経過に気付かなかったにすぎない」とし、特段考慮すべき事情ではないと退けた。
 これまでの経緯をみれば、除斥期間の経過に不注意で気付かなかったため、国が和解に応じてきたのではないことは明らかである。
 韓国への帰国を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当の支給が打ち切られたのは違法として、韓国人男性が国などに受給資格の確認などを求めた訴訟の02年の控訴審判決で、大阪高裁は受給資格を認めた一審判決を支持した。
 控訴を棄却された坂口力厚生労働相(当時)は上告しない理由を「被爆者が生涯癒やすことのできない傷あとと後遺症を負われたことに思いを致し、援護法が人道的目的の立法との側面を有することを踏まえた」と説明している。
 大阪高裁も被爆者援護法を「被爆者が被った特殊な損害について、国籍や資力を問うことなく一律に援護を講じる、人道的目的の立法」と認定している。
 人道的な目的を持つ被爆者援護法の対象となるかどうかは、被爆者であるかどうかで判断されるべきである。除斥期間で形式的に判断することがあってはならない。
 国は主張が認められはしたが、被爆者援護法の精神を忘れてはならない。「人道的目的の立法」であることを誠実に踏まえれば、救済の道にかじを切るしかないはずだ。