<社説>働き方改革先送り 中小労働者の視点に立て


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 厚生労働省が今国会に提出する働き方改革関連法案の修正案を公表した。法案の柱である残業の上限規制と同一労働同一賃金について、中小企業への適用はいずれも1年遅らせる。

 人手不足などから長時間労働が常態化する中小企業の労働者にとっては納得がいかない。働き方改革の原点に戻り、日本の労働者の大多数を占める中小企業労働者の視点に立って改革の中身をいま一度問い直すべきだ。
 厚労省の修正案によると、大企業の上限規制は予定通り2019年4月から適用される。しかし中小企業に対しては1年先送りした20年4月からとなる。同一賃金同一労働も大企業は20年4月、中小企業は21年4月から導入する。
 表向きの理由として、厚労省は昨年の衆院選の影響で法案の国会提出が遅れたことを挙げている。加藤勝信厚労相は、上限規制には罰則があり「周知や準備の期間を確保する必要がある」としている。
 だが実際には「人手不足に残業規制が重なると労働力が確保できない」とする中小企業経営者側の要望に自民党が応えたものだ。修正案は労使の意見を反映させることなく、自民党厚生労働部会に提示された。働く側の視点が抜け落ちているのだ。
 中小企業労働者が不満を募らせるのは理由がある。16年度の過労死白書によると、同年に労働時間が週60時間以上となった人の割合を従業員規模別で見ると「30~99人」が8・1%で最多だった。残業に関する労使協定(三六(さぶろく)協定)を結ぶ中小企業は43・4%にとどまっている。
 中小・零細企業が多い沖縄でも傾向は同様といえる。沖縄労働局が16年に実施した重点監督で、県内の対象事業場130のうち、76・9%で違反が指摘された。そのうち49・2%は違法な時間外・休日労働だった。
 八重山労働基準監督署が15、16年に行った監督指導では八重山郡内のレンタカー業20事業場全てと宿泊業31事業場の97%で法令違反があった。時間外・休日労働の最長は200時間を超えていた。
 人が足りないから長時間労働を強いるという働き方は、労働者の人権を無視するものだ。だからこそ上限規制によってバランスの取れた働き方が求められている。
 正社員が少ない県内の雇用環境から見ても、同一労働同一賃金の適用は一刻も早く実現してもらいたい。
 働き方改革は安倍晋三首相肝いりの政策である。首相官邸ホームページに掲載された「改革の意義」にはこうある。「働く人の視点に立って(中略)働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにする」
 そもそも今回の法案は過労死ラインとされる月100時間の残業を例外的に認める規定もあり、問題は多い。働く人のための改革だといえるよう国には再考を促したい。