<社説>訪日外国人の医療 官民挙げ安心な観光地に


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 外国人観光客の増加に伴い医療機関でのトラブルが増えているとして、政府が対策に乗り出すことになった。関係省庁と日本医師会などでつくるワーキンググループを近く発足させる。

 沖縄でも外国人観光客が急増しており、過去にはトラブルもあった。国が腰を上げるのが遅かった感もあるが、外国人が心配せずに国内観光を満喫できるよう、環境整備に本腰を入れるべきだ。
 政府の具体的取り組みとしては、外国人患者の診察時対応の統一マニュアルを整備するほか、自治体に医療機関の相談支援窓口の設置を促す。
 5月までに対策をまとめ、政府の成長戦略や2019年度予算の概算要求に盛り込んでいく方針だ。
 厚生労働省が昨年公表した外国人受け入れ実態調査では、医療機関の負担感や今後の不安として「言語や意思疎通の問題」が最も多く、次いで「未収金や訴訟などのリスク」「対応に要する時間や労力の増加」が挙がった。
 苦慮しているのは県内の医療機関も同様だ。19の救急病院を対象にした昨年の県医師会調査によると、受け入れた外国人観光客は13年度の351人から15年度には1492人と4倍超になった。
 トラブルとして「言葉の壁、コミュニケーションが取りにくい」が挙がり、診察に通常の2~3倍の時間がかかる現状が浮き彫りになった。さらに「高額で現金・カード決済ができない」「旅行保険に未加入」として、未収金800万円余も発生していた。
 まず解決すべきは意思疎通の改善だろう。
 厚労省調査では、国に求める支援の1位が「医療通訳サービスの導入」だった。専門の医療通訳者を配置している病院もあるが、15%にすぎない。言語も英語と中国語が大半で、急増するアジア訪日客への対応は十分ではない。
 人材確保が難しいのなら、IT技術の活用という選択肢もある。近年、タブレット端末を使って医療通訳をするサービスが普及している。通訳センターの通訳士とビデオ通話で会話する方式だ。24時間対応可能で、県内でも導入する医療機関が増えている。
 県内では昨年、早産した台湾人観光客が800万円の医療費負担に困るという事態があった。県内外から2千万円の寄付が寄せられ、民間の善意が窮地を救った。その後、余剰金1100万円余は県に託され、外国人観光客の医療費支援に使われる予定だ。
 県は対策協議会を発足させる考えだ。医療行政だけでなく、観光行政、県医師会、観光業界など官民が一体となって対策に乗りだしてほしい。
 昨年の沖縄への観光客は939万人超と過去最多を記録した。中でも外国人客が22%増の254万人と全体を押し上げた。
 沖縄を安心・安全で居心地のいい観光地にするために、沖縄独自の対策も急がれる。